研究課題/領域番号 |
16K08241
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
杉山 剛志 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (70268001)
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研究分担者 |
上田 浩 岐阜大学, 工学部, 教授 (50253779)
高橋 圭太 岐阜薬科大学, 薬学部, 助教 (50634929)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腸管出血性大腸菌 / III型分泌機構 / Rho GTPase |
研究実績の概要 |
微生物接着シグナルを解析するために、腸管出血性大腸菌および腸管出血性大腸菌と同様の機構によって大腸上皮細胞にA/E病変を引き起こすシトロバクター・ローデンティウムについてTir領域のクローン化と変異株の作製を試みた。腸管出血性大腸菌についてはTir領域のクローン化と変異導入のためのコンストラクトを作製し、一部変異株を作製した。シトロバクター・ローデンティウムについてはTir領域をクローン化し、一部変異株を作製したのに加え、大腸菌発現系を用いてTirを発現・精製し、マウスを免疫して抗Tir抗体を作製した。さらにこのTirをマウス腸管上皮細胞株で発現させ、Tir破壊株をin vitroで感染させてA/E病変が形成されることを確認した。これら一連の変異株については平成29年度において必要な変異株を全てそろえ、in vitroでの確認を行ったうえでマウス感染実験を行う予定である。 上記、シトロバクター・ローデンティウムのin vitro感染系を用いて、マウス腸管上皮細胞株がどのようなタンパク質を発現するか網羅的に解析するために、LC-TOF/MSによるペプチドマッピングを用いて実験条件の検討を行った。その結果、細胞質タンパク質として約500種類、細胞培養上清中のタンパク質として約300種類のタンパク質が検出され、感染した細菌の産生するIII型分泌機構のエフェクタータンパク質も検出された。しかし、報告されているようなサイトカイン、ケモカインやIgA産生誘導に関与するようなタンパク質は検出されなかったことから、さらに検出率を上げるために試料採取の時間の検討や試料の分画等が必要と考えられた。 また、微生物接着シグナルによって引き起こされるアクチン凝集に関連するシグナル伝達の解析として、Rho GTPaseの活性型を腸管上皮細胞株で発現させ、種々の転写因子の活性化について検討した。Rho GTPaseのうちCdc42はNF-κBを活性化したが、RhoAおよびRac1は活性化しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度では当初、腸管出血性大腸菌のみについてTirに変異を有する一連の変異株の作製とこれを用いたin vitro、in vivoの検討を行う予定であったが、腸管出血性大腸菌と同様にIII型分泌機構によってA/E病変を引き起こすシトロバクター・ローデンティウムでの解析を取り入れることによって現象の一般性を検討しようと考え研究を進めた。腸管出血性大腸菌の変異株の作製がやや難航し、当初予定の一部の変異株のみ作製に成功した。追加で検討を始めたシトロバクター・ローデンティウムについては、Tirの変異株の作製およびクローニングを行った。クローニングしたTirを、大腸菌発現系を用いて発現・精製し、マウスを免疫して抗Tir抗体の作製も行った。これらを用い、マウス大腸上皮細胞株CMT-93にTir変異株をin vitro感染させてもA/E病変を起こさないこと、CMT-93にTirの発現プラスミドを導入して発現させ、Tir変異株を感染させるとA/E病変が観察されることを確認した。平成28年度中に一連の変異株を全てそろえることができなかったため、in vivoの検討を平成29年度に先送りした。また、シトロバクター・ローデンティウムのin vivoの確認ができたことおよびLC-TOF/MSによるペプチドマッピングの解析が利用可能となったことから、平成29年度に予定していたin vitroでの検討の予備実験を行った。CMT-93にシトロバクター・ローデンティウム野生株およびTir破壊株をin vitroで感染させ、細胞質タンパク質および細胞培養上清中のタンパク質を網羅的に検索する実験条件を検討した。 一方、RhoGEFおよびCdc42類縁のRho GTPaseの発現クローンの作製については順調に進んだため、平成29年度に予定していたRhoGEFおよびRho GTPaseの細胞内発現による細胞応答についても検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に予定していた腸管出血性大腸菌の一連のTir変異株の作製を早急に行う。変異株導入のためのコンストラクトの作製まではほぼ終了している。現在特に難航しているのは染色体ゲノム中に遺伝子を組込む段階である。当初、温度感受性プラスミドを用いた自発的相同組換えによる変異株の作製を試みていたが、λファージ由来組換え酵素の発現系を用いるRedET法による変異株の作製の検討を始めている。シトロバクター・ローデンティウムおよび腸管出血性大腸菌の一部の変異株はこの方法で変異導入に成功しているのでこれによって変異株の作製が可能と考えている。シトロバクター・ローデンティウムについても同様に一連のTir変異株の作製を行い、両菌の変異株についてin vitroにおいて接着、A/E病変およびアクチン凝集の有無を、共焦点レーザー蛍光顕微鏡等を用いて確認する。in vivo感染実験を行い、変異株とIgA産生との関係を解析する。並行してin vitroの検討も行う。平成28年度に予備検討を行ったLC-TOF/MSによるペプチドマッピングによってさらに詳細な解析を行い、野生株感染時とTir変異株感染時の宿主細胞応答の違いを網羅的に解析する。予備検討からさらに解析の精度を上げる必要があると考えており、そのためにサンプルの採取時間の検討、採取したサンプルの分画の検討を行う。網羅的解析の結果見出された分子についてRT-PCRによる遺伝子発現上昇や抗体によるタンパク質レベルの発現の確認を検討する。また、当初から平成29年度計画に予定してる各種遺伝子の発現についても確認を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度において、腸管出血性大腸菌と同様にIII型分泌機構によってA/E病変を引き起こすシトロバクター・ローデンティウムでの解析を取り入れることによって現象の一般性を検討しようと考えた。変異株の作製が当初の想定からやや難航し、平成28年度内に一連の変異株をそろえることができなかったため、in vivoの感染実験を全て平成29年度に先送りした。よって、動物実験に使用を予定していた予定額全額を平成29年度使用に先送りした。
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次年度使用額の使用計画 |
現在行っている腸管出血性大腸菌およびシトロバクター・ローデンティウムの一連の変異株が作製出来次第、これら変異株を比較する感染実験を行うために使用する。感染実験はP3A実験施設において行う。マウスへ経口摂取して約4週間、血清及び糞便を採取して抗体産生の上昇を調べる。腸管出血性大腸菌およびシトロバクター・ローデンティウムの検討で抗体価の測定のほか、各消化管組織での菌の定着の度合い、免疫細胞の動向等の検討を行うため複数回の実験が必要と考えており、これら一連の動物実験に繰り越した研究費を使用する。
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