研究課題
体内時計(概日リズム)の調節因子である時計遺伝子が、睡眠障害、循環器疾患、メタボリックシンドローム、がんなど様々な疾患の発症に影響することが多数報告されている。その時計遺伝子が薬物輸送や代謝リズムの調節に深く関与することから、病気と体内時計との関係が重要視されている。体内時計を制御する時計遺伝子は、現在数種が同定されているが、それらを制御している明確な調節因子は明らかとなっていない。また、マウスやヒトでは3種のポリアミン(プトレスシン、スペルミジン、スペルミン)が主に存在するが、3種のポリアミンの細胞内濃度の経時変化は測定されておらず、細胞増殖調節因子のポリアミンが体内時計に及ぼす影響は未だ明らかとなっていない。申請者は、ポリアミンの同定や濃度変化をHPLCを用いて正確に測ることが可能であるため、マウス線維芽細胞(NIH3T3)とヒト肝がん細胞(HepG2)を用いて、デキサメタゾン(同調試薬)で個々の細胞の体内時計を同調させた後、ポリアミンの細胞内濃度の2日間の経時変化を測定した結果、3種がそれぞれ規則性のある概日リズムを刻んで変動していることを見出した。そこで、時計遺伝子のマスターレギュレーターBMAL1と細胞周期制御因子p16の発現量を正常細胞とポリアミン欠乏細胞で比較した結果、BMAL1及びp16がポリアミンモジュロンと判明したので、これら2種の蛋白質のポリアミンによる蛋白質合成促進メカニズムを分子レベルで明らかにし、ポリアミンの細胞増殖制御に果たす役割を解析した。
2: おおむね順調に進展している
体内時計に対するポリアミンの効果において、NIH3T3細胞を用い、正常細胞とポリアミン欠乏細胞で時計遺伝子の発現量の差をWestern blotting及びNorthern blottingを用いて比較した。その結果、体内時計のマスターレギュレーター蛋白質のBMAL1が、ポリアミンにより翻訳レベルで3.5倍と強く発現促進をうけることを明らかにした。また、この遺伝子のmRNA構造の検討を行ったところ、Bmal1 mRNAも他の真核細胞のポリアミンモジュロンのmRNAと同様、5’-非翻訳領域の長さが長く、ポリアミンの結合によってribosome shuntingが起こると予想される翻訳効率が悪いmRNAであった。そこで、ポリアミンによってribosome shuntingが起きるかどうか、ポリアミン結合部位のstem and loop構造を部位特異的変異導入により欠損させたプラスミドを作製し、細胞に形質転換して、ポリアミンによる合成促進効果が消失するかどうか、詳細にメカニズムの解析を進めている。
BMAL1の翻訳開始領域のRNAを合成し、円二色性(CD)を用いた物理化学的手法とSelective 2’-hydoroxyl acylation analyzed by primer extention(SHAPE分析:RNAの二次構造の変化を検出する方法)を用いた生化学的手法を用い、ポリアミンによるRNAの構造変化とポリアミンの結合部位を解析する。BMAL1はヒトにも存在するが、5’-非翻訳領域の長さがマウスと異なり、長いという特徴がある。そこで、HepG2細胞でBMAL1蛋白質のポリアミンによる合成促進機序を調べ、マウスと同様の効果が見られるかどうか明らかにする。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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