研究課題/領域番号 |
16K08245
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
小濱 孝士 昭和大学, 薬学部, 准教授 (60395647)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 好中球 / 酸化LDL / リポタンパク質 / 動脈硬化症 / 血管炎症 |
研究実績の概要 |
動脈硬化病巣や血栓に存在することが報告されている好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)がどのように血管病変の形成や炎症惹起に寄与するか、特に酸化LDLが共存するときのNETs形成が血管内皮に対してどのような反応を引き起こすかを調べるために、酸化LDL存在下でNETsが形成されたときの細胞外放出物をヒト大動脈血管内皮細胞(HAECs)に作用させて検討した。 HL-60細胞をAtRA刺激により好中球様細胞に分化させた後、PMA刺激してNETsを誘導した。その後さらにPBSまたは酸化LDLで刺激した。この培養上清を回収してHAECsに24hr作用させた後、HAECsにおける各種応答を解析した。HL-60由来好中球でNETs誘導と酸化LDL刺激を共に行ったときの培養上清をHAECsに作用させると、HAECsではVE-cadherin染色が減弱し、顕著な形態変化が引き起こされて細胞の真円度が大きく低下した。またこのときHAECsではICAM-1発現が著しく上昇した。HL-60由来好中球にNETs誘導または酸化LDL刺激をそれぞれ単独で行ったとき、HAECsではGRP78とGRP94発現が誘導されたが、NETs誘導と酸化LDL刺激を両方行ったときにはこれら発現がさらに増強された。 以上の結果から、血管でのNETs形成と酸化LDLの共存は、それぞれが単独に血管内皮に作用するときよりも強力に炎症や小胞体ストレスを誘発する危険因子となることが強く示唆された。血管内膜近傍におけるNETs形成は、動脈硬化症で上昇する酸化LDLと相乗的にはたらき血管組織の傷害をもたらす危険因子として寄与すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度では酸化LDLが存在するときのNETs形成の特徴について解析を行ったが、今年度はさらにHAECsで誘発される応答についての解析へと進展させ、HAECsにおける具体的な応答反応を見出すことができた。これまでにHAECsを用いた実験で報告された酸化LDL刺激による炎症誘導は、比較的高濃度(100 ug/mL~)の酸化LDL刺激によって引き起こされる応答について示される傾向があったが、今回の我々の検討ではより低濃度(20 ug/mL)の酸化LDLを用いており、酸化LDLとNETs誘導との相乗作用によって強力なレスポンスが引き起こされることを見出すことができ、血管病変の形成や血管炎症惹起時の血管内皮に対する酸化LDLとNETs形成の意義を新たに示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)今年度の検討で見いだされたHAECsでの炎症応答についてさらに詳細に解析するために、受容体や血球誘導因子、プロテアーゼ類の発現誘導などといった他の因子についても解析を進める。 (2)酸化LDL共存下でNETs誘導を行ったときに産生され、HAECsに作用することで炎症関連の応答を引き起こす物質が何なのかを明らかにするために、酸化LDL共存下でNETs誘導を行ったHL-60由来好中球の培養上清中に放出される生理活性物質について解析を進める。具体的には、質量分析装置を利用して脂質およびその代謝物を網羅的に解析することにより探索を行う予定である。 (3)HL-60を分化誘導した好中球様細胞だけでなく、ヒト末梢血から分離した好中球も利用して各種応答を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度となる次年度に向けて、研究成果を学会や論文で報告することを計画しているため、その費用に充てる。また、NETs誘導と酸化LDL刺激をおこなった後のHL-60由来好中球の培養上清中に含まれる生理活性物質を探索する実験においては、質量分析装置を利用した測定を予定している。ここでは溶媒やカラムといった物品のみならず、装置の消耗品の交換などといった維持費が必要となることが見込まれる。したがってこれら諸経費のためにも利用する予定である。
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