研究課題/領域番号 |
16K08252
|
研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
村田 富保 名城大学, 薬学部, 准教授 (80285189)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | レギュカルチン / 肥満 / 癌 / 骨代謝 / ストレス応答 |
研究実績の概要 |
本研究において、多機能性レギュカルチン(RGN)に関する研究を実施し、以下に示す研究実績を得た。 1 肥満症の病態機序におけるRGNの関与の解明: CRISPA-Cas9システムを用いてRGN遺伝子をノックアウトさせた脂肪前駆細胞3T3L1細胞を作製した。次いで、RGNの発現を阻止することにより、3T3L1細胞の脂肪分化が抑制されることを見出した。この結果は、RGNが脂肪分化を制御する生体内因子であることを証明した研究成果となった。 2 RGNの細胞周期停止機能を利用した癌の治療法の開発: 培養した膵臓癌細胞、肺癌細胞、肝癌細胞に対してウイルスベクターを用いてRGNを過剰発現させることにより、細胞増殖能が低下することを見出した。さらに、ヒトの膵臓、肺、肝臓の腫瘍組織から採取した癌細胞において、RGNの発現が低下していることを見出した。これらの結果は、RGNの発現低下が膵臓癌、肺癌、肝癌の発症に関与することを示唆する知見であり、RGN発現用ウイルスベクター及びRGN発現誘導剤が抗腫瘍治療薬になりうることが示唆された。 3 骨粗鬆症の病態機序におけるRGNの関与の解明: RGNを発現誘導する新規天然化合物を単離し、その化合物が骨吸収を促進する炎症性サイトカインの産生を抑制することを見出した。これらの結果から、炎症性サイトカインの増加による骨粗鬆症に対する治療薬の開発においてRGNが新しい標的因子となることが示唆された。 4 RGNによる細胞内ストレス関連疾患の発症抑制の解明: 神経細胞様に分化したPC12細胞において、RGNを過剰発現させることにより、アミロイドβによる細胞毒性が軽減されることを見出した。さらに、CRISPA-Cas9システムを用いてRGN遺伝子をノックダウンさせたPC12細胞では、アミロイドβによる細胞毒性が増強されることを見出した。これらの結果は、RGNがアミロイドβによる神経毒性に対する生体防御因子であることを示唆する研究成果となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多機能性レギュカルチン(RGN)に関する研究の現在の進捗情報は以下の通りである。 1 肥満症の病態機序におけるRGNの関与の解明: 当初の研究計画通り、細胞培養の実験系において、RGNの発現変化に依存して脂肪分化が変化することを見出すことができ、RGNが脂肪分化促進因子であることを証明することができている。また、実験の進行が少し遅れているが、RGNを過剰発現させたトランスジェニックラットを用いた実験では、RGNによる脂肪分化の異常亢進が肥満の発症に関係していることを支持する結果を概ね得ている。 2 RGNの細胞周期停止機能を利用した癌の治療法の開発: 当初の研究計画通り、RGN遺伝子を高効率で高発現できるアデノウィルスを作製し、そのウイルスを膵臓癌細胞や肺癌細胞に感染させることで、細胞増殖能を低下させることができている。また、膵臓癌細胞や肺癌細胞をRGN発現誘導化合物で処理することで、細胞増殖能を低下させることができている。 3 骨粗鬆症の病態機序におけるRGNの関与の解明: 当初の研究計画では、骨粗鬆症の発症に血中RGN濃度の上昇が関与していることを明らかにするための実験を進めてきたが、再現性のある結果を得ることができなった。そこで、研究計画を変更して、骨粗鬆症の発症に関与する炎症性サイトカインの産生に対するRGN発現誘導化合物の抑制効果について調べ、炎症性サイトカイン遺伝子の発現誘導に関与するNF-kBの活性化がRGNによって抑制されることを見出している。 4 RGNによる細胞内ストレス関連疾患の発症抑制の解明: 当初の研究計画通り、細胞内ストレスが関連した疾患におけるRGNの病態生理的役割について研究を進め、特に、アルツハイマー病の発症に関与するアミロイドβに注目して、培養細胞の実験系でアミロイドβによって惹起される酸化ストレス及び小胞体ストレスに対してRGNが保護効果を示すことを見出している。
|
今後の研究の推進方策 |
多機能性レギュカルチン(RGN)に関する研究の今後の推進方策は以下の通りである。 1 肥満症の病態機序におけるRGNの関与の解明: RGNが脂肪分化を促進することを見出したことから、肥満モデルラットに対してRGNの発現誘導化合物を投与して、肥満の発症が抑制されるか否かを調べる予定である。また、RGNを過剰発現させたトランスジェニックラットの高脂血症・高コレステロール血症の発症メカニズムを調べ、肥満症におけるRGNの病態生理的役割について調べる予定である。 2 RGNの細胞周期停止機能を利用した癌の治療法の開発: RGN発現誘導化合物及びRGN発現用アデノウィルスによる癌細胞の増殖抑制について、培養細胞レベルで調べる予定である。また、癌のモデルマウスに対してRGN発現誘導化合物を投与したり、RGN発現用アデノウィルスを感染させることで、腫瘍形成が抑制されるか否かを調べる予定である。 3 骨粗鬆症の病態機序におけるRGNの関与の解明: 炎症性サイトカイン産生増加による骨粗鬆症のモデルマウスに対してRGN発現誘導化合物を投与して、骨粗鬆症の発症が抑制されるか否かを調べる予定である。 4 RGNによる細胞内ストレス関連疾患の発症抑制の解明: 細胞内で小胞体ストレス及び酸化ストレスを惹起させた時にRGNによって制御されるカルシウム情報伝達経路を同定することができている。そこで、RGNによるカルシウム情報伝達経路の制御が細胞内ストレス応答反応の一つであることを調べる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
「次年度使用額」が生じた理由は以下の通りである。 1 昨年度と同様に、ウイルスベクターの構築実験は共同研究で進めることができたため、分子生物学用試薬、細胞生物学用試薬などの消耗品の使用量が抑えられたこと。 2 本年度に組み換えタンパク質の作製を受託依頼したが、本年度中に製品が納期されなかったために、その支払いが次年度になったこと。
|