マウスの大脳基底核原基からニューロスフェアを作製し、このニューロスフェアを分化誘導して突起を形成するアストロサイトを得た。この突起を形成するアストロサイトを用いて、細胞外器質の一つであるラミニンによってコートされた上で分散培養した際の突起形成に関わる分子機構の解明を試みた。今年度は以下の結果を得た。①水チャンネルの一つであるアクアポリン4(AQP4)を配列が異なる2種類のsiRNAを用いてノックダウンして発現を抑制すると、β1インテグリンのタンパク質発現がいずれのsiRNAによってもおよそ40%減少した。②β1インテグリンを配列が異なる2種類のsiRNAを用いてノックダウンして発現を抑制すると、細胞骨格再構築の制御に重要なfocal adhesion kinase(FAK)のTyr397残基のリン酸化がおよそ20~50%減少し、突起形成が抑制された。③FAK阻害剤のFAK inhibitor 14(1 μM)によっても、FAKの活性化に重要なTyr397残基のリン酸化がおよそ30%減少し、突起形成が抑制された。④β1インテグリンの活性化への関与が報告されているRap1 GTPaseには、Rap1aとRap1bの2つのアイソフォームがある。そこで、Rap1a siRNAとRap1b siRNAを同時に用いてRap1 GTPaseをノックダウンして発現を抑制すると、突起形成が抑制された。昨年までに、AQP4をsiRNAを用いてノックダウンして発現を抑制すると、FAKのTyr397残基のリン酸化ならびに突起形成が抑制されることを報告してきたが、今年度の結果と合わせて、AQP4はβ1インテグリンを介してFAKのリン酸化・活性化を制御することによって、突起形成を促進していることが明らかになった。
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