研究課題
本研究はウイルスの宿主細胞への侵入過程に着目し、C型肝炎ウイルス(HCV)感染系をモデルとして、ウイルス-宿主間、特に侵入過程における両者の攻防の一端を分子進化的な側面から浮き彫りにすることを目標としている。HCVには、CD81、Claudin-1、Occludin、SRBI等、複数の侵入に関わる宿主因子(受容体)が知られている。これまでに、ヒト肝由来Huh7.5.1細胞よりCD81欠損株、Claudin-1欠損株をすでに樹立しており、肝細胞へのHCV感染にこれら受容体が必須であることを示している。さらに、Huh7.5.1-8細胞よりOccludinノックアウト細胞をゲノム編集(CRISPR/Cas9系)技術を用いて樹立している。今回さらに、HepG2/CD81細胞より同様の方法でOccludinノックアウト細胞を樹立した。これら複数のOccludinノックアウト細胞の解析から、HCV感染にOccludin分子が必須であることがあらためて示された。そこで、これらHCV受容体欠損細胞に対して、HCV-JFH1株を繰り返し感染させることで、感染性ウイルス株が得られるかを検討している。今までのところ、CD81欠損株、Occludin欠損株では、全く感染性ウイルス株が得られておらず、genetic barrierが非常に高いことが示唆された。一方で、Claudin-1欠損株に感染するHCV-JFH1由来亜株は分離されてきている。また、HCV-JFH1株をHuh7.5.1細胞に繰り返し感染させ、高感染性株を分離した結果、SRBI依存性が欠損(大きく低下)したウイルス株も得られた。このことから、HCV感染において、少なくとも実験室レベルでは、Claudin-1やSRBIに対してはgenetic barrierがCD81やOccludinに対してよりは高くないことが考えられた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、受容体選択性の異なるウイルス株の分離が進んでいる。新たなOccludinノックアウト株の樹立にも成功している。
今後の継続して、受容体選択性の異なるウイルス株の分離を試み続ける。分離された受容体選択性の異なるウイルス株について、ゲノム配列の決定、性状解析を進め、当該表現型を示す分子背景について議論できるようにしたい。将来的には、生物学的、医学的意味についても考察できるようにしたい。
申請時の希望額より26%減の額が交付されている。次年度以降のウイルス株の性状解析には分子生物学的実験が多いため多額の費用が見込まれ、そのために本年度は、選択と集中を進め、極力節約に努めたため。当初予定していた、人件費・謝金分も次年度分に振り分けることにしたため。
申請時の計画をできるだけ履行するため、ウイルスの定量実験等の高額な分子生物学的実験の費用に充てる予定である。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/466-biochemistory/6502-biochem-2016-1.html