研究課題
エストロゲン受容体(ER)の発現は、乳がんのサブタイプ分類の決定、さらには、治療薬の選択において重要な指標である。しかしな がら、一部の予後不良症例(再発症例)では、ERの発現低下が確認されている。本研究では、ERの発現低下が誘導される機序を明らかにし、さらには、そのような形質を示す難治性乳がんに対する新たな治療戦略の構築を目的とした。昨年度までにERの発現低下が確認される培養条件を確立できているため、本年度はこの培養条件を用いてERの発現低下に伴いどのような遺伝子群の発現が変動するかをより詳細に検討した。また、ER応答性のルシフェラーゼ発現ベクターを恒常的に発現するER陽性の乳がん細胞株(MCF7とZR75-1)を作製し、ERの発現低下自体が単一の細胞内で生じるのかも併せて検討した。上記の解析と併せて、免疫不全マウスを用いた解析も行った。ERの発現低下が見られる症例として、遠隔転移(特に骨転移)が報告されていたため、上述の乳がん細胞2種を用いて骨転移モデルの作製を試みており、現在までに乳がん細胞の大腿骨への定着が確認できている。骨転移株を作製したのちに、これらの細胞株を用いてERの発現低下に伴い変動した遺伝子群と転移能の関連を評価する予定である。
2: おおむね順調に進展している
「研究実績の概要」の項目で述べた通り、平成29年度の研究計画に沿って本研究は推進されている。ERの発現低下に伴い変動する遺伝子群の探索と同定まで終了している。また、ER応答性のレポーター遺伝子(GFPとルシフェラーゼ遺伝子)を発現する乳がん細胞株を作製し、同一細胞でERの発現低下が生じるかも検討した。その結果、同一細胞内でERの発現が低下することを明らかにした。これらの解析に加え、骨転移症例でERの発現低下が観察されるため、免疫不全マウスを用いて骨転移性の乳がん細胞株を作製し、ERの発現低下に関与する遺伝子群が骨転移に関連するかどうかも検討を開始している。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
ERの発現低下に関わる遺伝子群と骨転移株において変動する遺伝子群の中から共通して変動する遺伝子群を抽出し下記2点を中心とした機能解析を行う。1) ERレポーター遺伝子を発現する細胞株を用いてERの発現低下を誘導するかどうかを解析する。また、2) 浸潤アッセイおよび動物モデルを用いて乳がん細胞の骨への転移性も併せて検討する。
予定していた動物実験が順調であったため、使用予定のマウスの匹数を大幅に削減した。そのため、次年度に持ち越す分の予算が生じた。次年度で新たに動物実験を行う際に使用する予定である。
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