乳がんのサブタイプ分類(ホルモンレセプターおよび HER2 受容体の有無)は治療薬の選択にお いて重要である。一方で、近年、再発巣においてサブタイプの不一致が見られることが報告されてい る。申請者らはこれまでに、乳がん細胞において非翻訳型 RNA の 1 つである microRNA-27b(miR-27b)の発現低下に伴い、がん幹細胞画分が形成されることを報告している (Takahashi et al. Nat Commun 2015)。その後の解析から、上記の幹細胞画分が形成される 際に、サブタイプ不一致の特徴の 1 つである“エストロゲン受容体(ER)の発現低下”が誘導されることを見出している。本研究は、乳がん幹細胞画分を用いてERの発現低下が誘導される 機序を明らかにし、難治性乳がんを対象とした新たな治療戦略基盤の構築を試みた。 昨年度までにERの発現低下が単一細胞内で生じるかを詳細に検討するために、ER応答性のGFPおよびルシフェラーゼ遺伝子を発現するベクター(ER-GFP-T2A-luc)を作製し、これらのレポーター遺伝子が恒常的に発現するER陽性の乳がん細胞株(MCF7-ER-GFP-lucとZR75-1-ER-GFP-luc)の樹立を試みた。また、ER の発現低下が見られる症例として、遠隔転移(特に骨転移)が報告されていたため、上述の乳がん細胞2種と免疫不全マウスを用いて骨転移モデルの作製を試みた。 本年度では、上記の細胞株(MCF7-ER-GFP-lucとZR75-1-ER-GFP-luc)を用いた解析から、単一細胞内でERの発現低下が誘導されることを明らかとした。また、動物モデルの作製に関しても、骨組織に生着した乳がん細胞を回収し、骨へ転移性を示す細胞株の作製が順調に進められた。
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