研究課題
α-ジストログリカノパチー(α-DGpathy)は筋異常に加え中枢神経系の異常を伴う最重症タイプの先天性筋ジストロフィー症の一群で、α-ジストログリカン(α-DG)のO-マンノース(Man)型糖鎖不全を原因とする。病態の中心はα-DGと細胞外マトリックス分子との結合障害であり、この結合はグルクロン酸(GlcA)とキシロース(Xyl)からなる繰り返し構造(GlcA-Xylリピート)を介している。我々は、GlcA-XylリピートがO-Man型糖鎖のコアM3構造に2個のリビトール5リン酸(Rbo5P)を介して結合していること、この構造がα-DGpathyの原因遺伝子fukutin、FKRP、ISPDによって合成されることを明らかにした。これにより、O-Man型糖鎖のコアM3構造の全体像がほぼ分かってきた。しかし、この構造中のXyl-Rbo5Pの結合様式とその合成酵素は未解明であった。TMEM5はα-DGpathyの原因遺伝子の一つで、O-Man型糖鎖の生合成に関わる可能性が示唆されていたが機能は不明であった。また、別のα-DGpathyの原因遺伝子であるPOMGNT1はO-Man型糖鎖のGlcNAcβ1-2Man(コアM1)の合成酵素であり、その触媒活性はコアM3構造の合成には関与しない。しかし、POMGNT1の変異はコアM3構造上のGlcA-Xylリピートを消失させることから、POMGNT1によるコアM3合成制御機構の解明は病態を理解する上で重要である。今年度、我々はTMEM5とPOMGNT1の機能を解析し、TMEM5がXyl-Rbo5Pの合成を担うXyl転移酵素であること、POMGNT1は触媒ドメインと糖結合ドメインの2つの機能ドメインを持ち、糖結合ドメインがGlcA-Xylリピートの形成に必要であることを明らかにし、コアM3構造とその生合成経路の全容を解明した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、TMEM5がO-Man型糖鎖の生合成に関わるXyl転移酵素であることを明らかにした。GlcA-Xylリピートは糖転移酵素LARGEにより形成されるが、最初のXylはLARGEでは転移できず、リピートの伸長にはTMEM5が必須であることが示された。また、POMGNT1は触媒ドメインと糖結合ドメインの2つの機能ドメインを持ち、糖結合ドメインがコアM3合成に必要であることを明らかにした。これらの成果により、コアM3 O-Man型糖鎖の構造と生合成経路の全容が解明できた。
近年、α-ジストログリカノパチーの原因遺伝子が多数報告され、O-Man型糖鎖に多様な構造が存在することが明らかになってきた。また、原因遺伝子により症状に差異が認められており、こうした症状の差異とO-Man型糖鎖の構造多様性との関連が指摘されている。しかしながら、こうした多様な糖鎖構造の機能や病態との関係や、多様な糖鎖構造の生理機能や修飾を制御するメカニズムは不明である。したがって、生合成に関わる糖転移酵素の詳細な機能解析は、各原因遺伝子の変異と病態の関係を明らかにするために必要である。そこで本研究では、以下の実験を計画している。(1)タンパク質上のO-Manに対してGTDC2は小胞体でコアM3を合成し、POMGnT1はゴルジ体でコアM1を合成することから、GTDC2によるコアM3形成に優先性がある。構築した酵素測定法を利用しKmなどそれぞれの酵素の諸性質を明らかにする。基質特異性を詳細に調べることによりPOMGnT1とGTDC2の性質の違いを明らかにする。(2) X線構造解析により各原因遺伝子産物(糖転移酵素)を詳細に解析し、糖鎖生合成のメカニズムと患者変異による発症のメカニズムを検討する。また、CRISPR-Cas9システムにより疾患原因遺伝子および関連遺伝子を欠損させた細胞株を作製し、O-Man型糖鎖(コアM3)欠損の影響と糖鎖の機能を細胞レベルで解析する。(3)POMGnT1ノックアウト細胞に幹領域を欠損したPOMGnT1、糖認識アミノ酸置換体POMGnT1など様々な変異体を発現させ、コアM3の糖鎖が伸長するかどうか調べる。POMGnT1のどの領域が重要であるかなども含めPOMGnT1によるコアM3伸展の制御機構を明らかにする。
次年度使用額が生じた理由としては、試薬類の購入が予定より若干少なかったことがあげられる。年度を跨いだ発注ができないため、年度末の発注を控えたためである。
これらの金額と次年度以降に請求する研究費を合わせた使用計画としては、昨年度購入できなかった試薬類の購入にあてる。
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