研究課題
α-ジストログリカノパチー(α-DGpathy)は筋異常に加え中枢神経系の異常を伴う最重症タイプの先天性筋ジストロフィー症の一群で、α-ジストログリカン(α-DG)のO-マンノース(Man)型糖鎖不全を原因とする。病態の中心はα-DGと細胞外マトリックス分子との結合障害であり、この結合はグルクロン酸(GlcA)とキシロース(Xyl)からなる繰り返し構造(GlcA-Xylリピート)を介している。GlcA-XylリピートはO-Man型糖鎖のコアM3構造に2個のリビトール5リン酸(RboP)を介して結合しており、α-DGpathyの原因遺伝子fukutin、FKRPによって合成される。今年度は、2番目のRboP転移酵素であるFKRPの結晶構造の解明と内在性のfukutinとFKRPによる複合体の形成の有無の確認を行った。結晶構造解析から、FKRPのゴルジ内腔側ドメインはN末側からステムドメインと触媒ドメインに分けられ、ステムドメインを介して多量体を形成していることが示唆された。そこで、ゲル濾過クロマトグラフィーで分子量を調べたところ、FKRPは溶液中で多量体を形成していることが確認された。一方、疾患FKRP変異体(Y88F, S221R)は、低分子量画分に検出され、多量体が形成されないことが分かった。また、TMEM5のみを強制発現させた細胞からTMEM5を免疫沈降した画分に、fukutin活性とFKRP活性がともに検出された。これにより内在性のfukutinおよびFKRPとTMEM5は複合体を形成していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、FKRPの結晶構造を解明し多量体を形成することを明らかにした。FKRPのステムドメインは多量体形成に関与しており、疾患変異体の性状から多量体構造が機能に重要であることが示唆された。また、TMEM5は内在性のfukutinおよびFKRPと複合体を形成することを明らかにした。これまで、RboPを含むO-Man型糖鎖は、α-DGのみでしか検出されないことから、RboPを含むO-Man型糖鎖修飾の標的となるタンパク質はかなり限定的であると考えられる。fukutin、FKRP、TMEM5は[Xylβ1-4RboP-1RboP-3]を合成する連続した反応を担うことから、複合体の形成は、希少な標的に確実にかつ効率的に糖鎖を合成することに寄与していると考えられる。
我々の研究により、O-Man型糖鎖の完全な構造とα-DGpathyの原因遺伝子産物の多くが糖転移酵素であることが明らかになってきた。そこで、これらの糖転移酵素の詳細な機能や病態との関係を明らかにする必要がある。次年度は、以下の実験を計画している。(1)タンパク質上のO-Manに対してPOMGnT2は小胞体でコアM3を合成し、POMGnT1はゴルジ体でコアM1を合成することから、POMGnT2によるコアM3形成に優先性がある。現在、POMGnT1の結晶構造解析が終了しており、POMGnT2の構造解析を進めている。この結晶構造解析に様々な配列のペプチドを用いており、POMGnT1とPOMGnT2の基質特異性が明らかになることが期待される。(2) FukutinやFKRPは哺乳類では初めて見つかったRboP転移酵素であるため、X線構造解析によりFukutinやFKRPの構造を詳細に解析し、RboP転移のメカニズムと患者変異によるα-DGpathy発症のメカニズムを検討する。
(理由)次年度使用額が生じた理由としては、試薬類の購入が予定より若干少なかったことがあげられる。年度を跨いだ発注ができないため、年度末の発注を控えたためである。(使用計画)これらの金額と次年度以降に請求する研究費を合わせた使用計画としては、昨年度購入できなかった試薬類の購入にあてる。
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