研究課題
本研究では、カルニチン/有機カチオントランスポーターOCTN1を介した水溶性抗酸化物質ergothioneine(ERGO)の脳内分布がどのような作用機序で抗うつ効果を発揮するのかを、ERGOの神経分化やシナプス形成制御メカニズムの解析から明らかにする。また、ストレスによるOCTN1の腎尿細管上皮細胞における発現変動に着目し、ERGOがストレス性精神・神経疾患のバイオマーカーとなる可能性について検討を加える。マウス培養神経幹細胞および神経細胞を用いてOCTN1による神経分化および神経成熟促進の細胞内メカニズムについて検討したところ、OCTN1を介した細胞内へのERGOの取り込みは神経栄養因子の誘導およびmTORやTrkBシグナルの活性化を介して神経分化および神経成熟を促進することが示された。マウスにERGOを経口摂取させたところ、培養細胞と同様のメカニズムで神経分化および神経成熟が促進された。ERGOによる神経分化および神経成熟促進の細胞内メカニズムが解明されたことにより、ERGOをシード化合物とする精神・神経疾患の新規治療薬開発への発展が期待される。ヒト腎尿細管上皮細胞へのストレスホルモンであるコルチゾール曝露により、OCTN1の機能的な発現が増加することが示された。ERGO含有餌を摂取させたマウスにおいて、ERGOとクレアチニンの腎クリアランス比がストレス負荷群では非負荷群と比べて低下していたことから、ストレス負荷により腎尿細管からのERGO再吸収が亢進することが示唆される。さらに、うつ病患者検体を用いた検討により、うつ症状の重症度と血中ERGO濃度の間に正の相関傾向が示された。以上より、ERGOがストレス性精神・神経疾患のバイオマーカーとなる可能性が示された。今後さらに研究が進むことにより、ERGOがストレス性精神・神経疾患の早期診断に利用されることが期待される。
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