研究課題
幹細胞由来ドパミンニューロンの線条体への移植はパーキンソン病の有望な治療戦略として期待される。我々はドパミンニューロンによる線条体神経支配に細胞接着因子であるインテグリンα5β1が関与することを明らかにしたことから (Sci Rep. 2017;7:42111)、インテグリンα5過剰発現ドパミンニューロンを線条体に移植すると効率よく神経回路に組み込まれると考えられる。そこで、ドパミンニューロンに分化した後にインテグリンα5が発現するように、ゲノム編集技術を用いてインテグリンα5(ITGA5)遺伝子をdopamine transporter (DAT)遺伝子にノックインすることを目的とした。また、DATの機能を損なわないためにヘテロノックイン細胞の作製を試みた。6.5 kbpの挿入配列とホモロジーアームを含むドナーベクターをCRISPER/Cas9遺伝子とともにマウス胚性幹(ES)細胞にエレクトロポレーション法により導入した。約0.8 kbpのホモロジーアームではノックイン細胞が得られず、ホモロジーアームを約2 kbpにすることでヘテロノックイン細胞を得た。ヘテロノックインされたES細胞のゲノムの塩基配列を解析したところ、wild typeアレルに変異が見られた。この結果は二個の対立遺伝子ともCas9により切断された後、片方はドナーベクターにより相同組み換えが起こったが、残る対立遺伝子は非相同性末端結合により修復されたことを示唆している。そこでCRISPER/Cas9遺伝子ベクターの導入量を減少させ、wild type配列を含むドナーベクターを追加してエレクトロポレーションすることで、wild typeアレルに変異のないヘテロノックインしたES細胞の作製に成功した。このヘテロノックインES細胞を神経分化させることでドパミンニューロンにおいて導入遺伝子の発現が確認された。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度はインテグリンα5遺伝子をDAT遺伝子にヘテロノックインしたES細胞を作製し、分化後の導入遺伝子の発現を確認した。さらに、nativeなES細胞を用いて細胞移植実験への準備を行った。移植神経細胞が生着しながらも、腫瘍化を抑制できる方法を検討し、浮遊培養による神経分化とマイトマイシンCによる処理が最適であることが分かった。これにより、次年度、遺伝子導入したES細胞から分化したドパミンニューロンのパーキンソン病モデル動物への移植に円滑に移行できるものと考える。
平成30年度は、インテグリンα5遺伝子をノックインしたES細胞から分化させたドパミンニューロンを、パーキンソン病モデルマウスに移植する。細胞移植によるパーキンソン病様症状の改善効果と線条体神経支配領域を評価し、インテグリンα5 過剰発現による促進効果を検証する。
本年度は移植細胞の調製に時間を要し、当初予定していた移植実験の例数に達しなかった。そのため、次年度使用額が生じた。次年度は、作製した細胞を使用した本格的な実験に移行する。これにより、前年度に繰り越した分も含めて効果的に使用する予定である。次年度も、研究経費として消耗品類(薬品、培養関係消耗品、実験用動物)の他、学会発表のための旅費を計上する。
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