研究課題/領域番号 |
16K08268
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吾郷 由希夫 大阪大学, 薬学研究科, 助教 (50403027)
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研究分担者 |
田熊 一敞 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (90289025)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | σ1受容体 / 5-HT1A受容体 / GABAA受容体 / ドパミン / 大脳皮質前頭前野 / 雌選択性試験 / 抗うつ薬 / アンヘドニア |
研究実績の概要 |
抗うつ薬であるセロトニン(5-HT)再取り込み阻害薬(SSRI)のフルボキサミンは、シグマ1(σ1)受容体のアゴニストとしても作用し、そのことが他のSSRIと異なり、精神病性うつ病や統合失調症の認知機能障害への有効性に寄与していると考えられている。本年度は、5-HT1A受容体とσ1受容体の機能的相互作用によってみられる大脳皮質前頭前野のドパミン神経活性化のメカニズムと、その行動学的意義について検討を行った。 精神疾患患者の一部でみられるような血中神経ステロイド減少を模倣した副腎・睾丸摘出マウス(AdX/CXマウス)では、GABAA受容体機能の低下が認められた。5-HT1A受容体とσ1受容体の両者を介した前頭前野ドパミン遊離増加の増強は、正常動物(偽手術マウス)ではみられず、AdX/CXマウスでのみ認められた。あらかじめベンゾジアゼピン受容体アゴニストを投与し、GABAA受容体機能を亢進させたAdX/CXマウスでは、前頭前野ドパミン遊離の増強は消失した。一方、GABAA受容体アンタゴニストであるピクロトキシンを前投与した正常マウスでは、AdX/CXマウスと同様に、5-HT1Aとσ1受容体の両活性化によるドパミン遊離増加の増強が観察された。以上の結果から、GABAA受容体機能が低下した条件下において、σ1と5-HT1A 受容体が機能的相互作用を介して前頭前野ドパミン遊離を調節していることが明らかとなった(Psychopharmacology 233:3125-34, 2016)。 さらに、このドパミン神経の複合調節機構の意義を行動学的に検討した結果、雌選択性試験という新規に開発したマウスの意欲評価法において、ピクロトキシンによってみられる無快感症(アンヘドニア)が、5-HT1A受容体とσ1受容体の機能的相互作用によって改善されることを明らかにした(Br J Pharmacol 174:314-27, 2017)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々は、末梢の神経ステロイドが低下した状態(副腎・睾丸摘出)下において、フルボキサミンがσ1受容体を介して前頭葉ドパミン神経系を活性化することを見出してきた。本作用は他のSSRIあるいは5-HT1A受容体アゴニストとσ1受容体アゴニストとの併用においても認められることから、フルボキサミンに限定されないσ1受容体/5-HT1A受容体間の機能的相互作用による機構と考えられる。 本年度では、この相互作用の発現にGABAA受容体の機能低下状態が必須であることを明らかにした。また当初、次年度以降に計画していた「相互作用によるドパミン神経機能調節を反映する薬効評価モデルの構築」に関して、並行して検討を進めていたところ、前頭葉ドパミン神経の活性化が、GABAA受容体機能低下による不安状態や無快感症(アンヘドニア)を改善することを見出した。これらの研究成果に関して、学術論文2報を公表することができた。以上より、当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に計画していたin vivoモデルでの解析は順調に進展しており、今後、σ1受容体/5-HT1A受容体のシグナル間相互作用に関わる神経回路を同定する。また、ドパミン神経モデル細胞(ヒトSH-SY5Y細胞)での細胞内カルシウム濃度測定系が確立できたことから、相互作用発現のメカニズム解析に関して、in vitroモデルでの検討も進める。
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