研究課題
本研究は、統合失調症の新たな治療標的分子やパスウェイを見出すことを目的として、統合失調症脆弱因子である神経ペプチドのPACAPとその下流のmiRNAによる認知機能や精神行動、それらに関わる神経回路を制御する仕組みを個体レベルで明らかにし、病態の分子メカニズムの解明を目指すものである。28年度は、研究実施計画に基づき主に以下の成果を得た。①PACAPによるmiRNA発現制御のシグナル解析マウス初代培養神経細胞において、阻害剤を用いた下流シグナルを解析した結果、PACAPによるmiRNAの発現および樹状突起スパインの増加には、G蛋白質を介したシグナルは関与していないことを明らかにした。また、PACAPが、miRNA成熟の制御機構に関わる可能性を検討した。miRNAは単独で働かずに、RISC(RNA-induced silencing complex)とよばれるRNA-タンパク質複合体を形成して機能することが知られている。この複合体の中心的役割を示すAgo2がPACAPにより発現上昇することを明らかにした。②PACAP欠損マウスにおけるmiRNA過剰発現による認知記憶障害の改善効果の検討シナプシンプロモーターにより、神経細胞特異的にmiRNAと蛍光蛋白質Venusを発現するレンチウイルスを作製した。マウス脳の海馬CA1へのウイルス導入法を確立し、ウイルス導入後2~3週間の神経細胞を観察した結果、神経細胞の可視化およびスパイン形態の計測が可能であることが確認できた。
2: おおむね順調に進展している
PACAPによるmiRNAの発現に関わるシグナルパスウェイが明らかになっただけでなく、PACAPがRICSにも影響を及ぼす可能性も出てきたのは、大きな成果である。また、作製したレンチウイルスがきちんと発現していることや、CA1に導入するテクニックが確立でき、スパイン形態が解析できることがわかったため、予定通りウイルス投与時の行動解析にシフトすることができると考えられる。
PACAP欠損マウスにおけるmiRNA過剰発現による認知記憶障害の改善効果の検討統合失調症様の精神行動異常の認められるPACAP欠損マウスの脳内に、レンチウイルスを用いて神経細胞特異的にmiRNAを過剰発現し、統合失調症の症状の1つである認知・記憶に対する改善効果を検討する。具体的には、PACAP欠損マウスにおいて、スパインの形態異常が認められた海馬CA1の両側にmiRNAを導入し、発現確認後に行動試験を行う。行動解析は、PACAP欠損マウスの認知記憶障害を確認することができる試験である物体探索認知記憶試験(Object Recognition Test:ORT)、強制水泳試験(Forced Swimming Test:FST)、Y迷路試験(Y-Maze Test )を実施する。
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