研究課題/領域番号 |
16K08273
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
宮本 理人 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学系), 助教 (60456887)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | AMPK / エネルギー代謝制御 |
研究実績の概要 |
身体運動が健康の維持増進に効果的であることは一般的にもよく知られている。運動療法による代謝改善の分子機序として5'AMP-activated protein kinase (AMPK) の重要性が近年の我々を含む多くの研究により明らかにされ、糖尿病をはじめとする様々な疾患に対する創薬標的として認識されている。よって、AMPKの活性調節機構を理解することは多くの疾患に対する治療薬創出に役立つと考えられる。これまでの多くの研究により、αサブユニットThr172残基のリン酸化がAMPK活性のよい指標となることが示されてきたが、我々が有する実験系でAMPK活性を評価すると、このリン酸化状態と活性の乖離例が多く認められた。このような背景のもと、AMPK翻訳後修飾のさまざまな刺激に対する応答性を検討してきた結果、食餌性の刺激によりリン酸化状態が変化するリン酸化修飾部位を新たに見出した。昨年度に引き続き、本年度の検討では、培養細胞系ならびに、マウスを用いて、食餌性の刺激により本リン酸化部位を修飾するメカニズムと、活性との関係について検討を行った。その結果、身体運動と食事というそれぞれ異なる生理学的刺激による代謝制御シグナルがクロストークする場としてAMPKが機能していることが明らかとなった。本検討の過程で、AMPK活性に影響を与えうる既知の化合物とは異なる骨格を有し、AMPK活性制御機構研究の新たなツールとなり得る化合物も見出した。また、本修飾部位近辺の構造が細胞の生存に対して重要な機能を担う可能性が示唆され、AMPKによるエネルギー代謝制御機構の生命維持における重要性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度において、以下について検討を実施し、概ね計画通り順調に進捗している。まず、我々の見出した修飾部位における、食餌性の刺激によるリン酸化状態の変化とそれに伴うアイソフォーム特異的なAMPK活性の変化に関して、関連する主な食事依存性のシグナルを同定し、リン酸化を制御する上流の分子制御機構を絞り込んだ。また、この過程で既知化合物ではあるが、AMPK活性に影響を与えうる、既知の類似化合物とは分子骨格の大幅に異なる新たな低分子化合物を見出した。引き続き、本修飾機構の代謝制御における機能を明らかにするため、本修飾部位に対するドミナントネガティブ体コンストラクトを作成し、培養細胞における発現実験を実施したが、ドミナントネガティブとして機能するような高発現細胞は一時的には得られるものの全て短期間にて死滅し、安定発現細胞株として株化することはできなかった。よって、本修飾部位近辺の分子構造はAMPKもしくは相互作用する分子に影響を与え、細胞の生存に関わる何らかの大きな役割を果たしているものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
ここまで概ね計画通りに進捗してきたが、周辺領域での競合が激しくなってきていることから、本研究の確実な報文化を目標に最終年度の研究を実施する。最終年度ではこれまでの解析結果をもとに個体レベルでの上流の分子制御機構の解明を進め、「食と運動による代謝制御シグナルのクロストークの場」という我々独自の概念をコンセプトとして確立する。本修飾が下流の生理応答に及ぼす影響に関して、海外のグループによる複数のノックインマウスを用いた大規模な解析が先行しているという情報を受け、本修飾部位の機能的破壊を行った遺伝子改変動物の解析を含めた内容での報文化を当初考えていたが、ここまで得られた知見を基にした報文化を進めるとともに、ゲノム編集技術を用いた変異ノックイン細胞の作成とその解析による本修飾機構の役割の解明を優先して実施する。
|