研究課題
糖鎖からシアル酸を遊離するシアリダーゼは記憶に重要な役割を担う。シアリダーゼ阻害剤をラット海馬に投与すると記憶能が著しく低下する。しかし、記憶におけるシアリダーゼの詳細な役割については不明な点が多い。研究代表者はこれまでに、シアリダーゼの酵素活性を組織学的にイメージングする蛍光色素BTP3-Neu5Acを開発した。BTP3-Neu5Acによる海馬の染色によって、苔状線維の神経終末が分布する領域に比較的強いシアリダーゼ活性があること、また、苔状線維終末におけるシアリダーゼ活性は神経の脱分極刺激により増加することを見出した。記憶形成時の神経興奮と連動してシアリダーゼ活性が変化している可能性がある。本研究では初めに、恐怖条件付け文脈学習時のシアリダーゼ活性変化についてインビボマイクロダイアリシス法を利用して検討した。ラット海馬の細胞外液中に含まれるシアル酸量は、学習時に有意に増加した。シアリダーゼには、細胞内局在や特性の異なるNeu1、Neu2、Neu3、Neu4の4種のアイソザイムがある。そこで次に、BTP3-Neu5Acによって検出されるシアリダーゼアイソザイムを検討した。ラットの各種シアリダーゼアイソザイムを利用してBTP3-Neu5Acの加水分解を行った。その結果、BTP3-Neu5Ac は中性条件下、Neu2とNeu4によって効率良く加水分解された。脳ではNeu2の発現が乏しいことから、BTP3-Neu5Acで検出される神経活動と連動したシアリダーゼ活性の変化は主にNeu4に起因すると考えられた。そこで、ラット海馬にNeu4に対するsiRNAを持続的に投与したところ、モリスの水迷路によって評価した海馬依存性記憶能が低下した。以上より、記憶形成時にシアル酸が脱離すること、また、記憶に関わるシアリダーゼアイソザイムの一端が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
シナプス可塑性におけるシアリダーゼの機能解明には至らなかったものの、記憶におけるシアリダーゼの重要性を明らかにした。研究成果は学術論文や学会で公表した。以上を鑑みて総合的に「おおむね順調に進展している」と判断した。
1年目で記憶形成時にシアリダーゼ活性が増加することをインビボ条件下で見出した。次年度では、記憶の基礎原理であるシナプス可塑性におけるシアリダーゼの役割を明らかにする。具体的には、(1)シナプス伝達効率の長期増強(LTP)を誘導する際のシアリダーゼ活性の変化、(2)シアリダーゼ阻害剤や外因性シアリダーゼがLTPに及ぼす影響、(3)LTPに関わるシアリダーゼアイソザイム、について明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 7件、 招待講演 3件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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