研究課題/領域番号 |
16K08277
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
南 彰 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (80438192)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 神経糖鎖生物学 / 記憶 / シアリダーゼ / シアル酸 / in vivo / 海馬 / グルタミン酸 / 脳梗塞 |
研究実績の概要 |
糖鎖からシアル酸を脱離させる酵素シアリダーゼは、記憶において重要な役割を果たす。初年度において、in vivoマイクロダイアリシス法を利用した実験から、恐怖関連付け文脈学習時に海馬領域のシアリダーゼ活性が増加することを見出した(J. Biol. Chem., 2017)。本年度では、脳梗塞時の虚血性神経興奮に伴ったシアリダーゼ活性の変化、及びシアリダーゼがグルタミン酸の放出に及ぼす影響を検討した。初めに、in vivoマイクロダイアリシス法により内在性のシアリダーゼ活性が検出されていることを正確に把握するために、シアリダーゼ阻害剤でラット海馬領域を灌流し、灌流液中に含まれるシアル酸量を分析した。従来型のシアリダーゼ阻害剤DANA は、HPLC分析時のプレカラム標識化の際にシアル酸の場合と同一化合物となるため、DANA存在下でのシアル酸分析は困難である。そこで新規シアリダーゼ阻害剤DPNAを合成した。ラット海馬をDPNAで灌流したところ、灌流液中に含まれるシアル酸量が減少した。逆に、バクテリア由来シアリダーゼを添加するとシアル酸量が増加した。このように、シアリダーゼ活性の変化はシアル酸遊離量の変化として捉えられることを確認した。そこで同方法を利用して、脳梗塞時のシアリダーゼ活性の変化を検証した。ACSFによる灌流下でローズベンガルによって脳梗塞を惹起させたところ、ラット海馬のシアリダーゼ活性が脳梗塞時に迅速に増加することを見出した。さらに、シアリダーゼ阻害剤を作用させると灌流液中のグルタミン酸量が著しく増加することを見出した。シアリダーゼはグルタミン酸放出を抑制すると示唆される。以上、脳梗塞時のシアリダーゼ活性増加は、グルタミン酸放出に対する負のフィードバック機構の一端を担うと考えられる(J. Biochem., 2018)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
記憶におけるシアリダーゼの重要性を明らかにした。研究成果は学術論文や学会で公表した。シナプス可塑性におけるシアリダーゼの機能解明については、現在順調に検討を進めている。以上を鑑みて総合的に「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
自然界に存在するシアル酸の主な分子種として、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)とN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)がある。Neu5Acは哺乳動物の脳に豊富に存在し、記憶などの神経機能に関わる。一方、Neu5Gcの合成酵素(CMP-Neu5Ac水酸化酵素)は哺乳動物の脳において発現しておらず、Neu5Gcは脳内に存在しないと考えられていた。研究代表者はこれまでに、血中に存在するNeu5Gcは脳に移行することを見出している(PLoS One, 2015)。Neu5Gcはシアリダーゼによる加水分解を受けにくく、Neu5Acの加水分解に対して阻害様効果を示すことから、脳に移行したNeu5Gcは記憶などの神経機能に影響を与えるとが考えられる。今後は、Neu5Gcが記憶に及ぼす影響を検討する。
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