門脈圧亢進症とは門脈圧が亢進する疾患群の総称であり、そのおよそ80%は肝硬変に伴って発症する。病態が進行すると胃・食道静脈瘤、脾腫、腹水などの重篤な症状を呈する。しかし、病態形成メカニズムには未解明な部分が多いため、門脈圧亢進症に対する根本的な治療法は確立しておらず、対症療法が主となっている。本研究では、胆汁鬱滞性の肝硬変を起こし、門脈圧亢進症を発症させる胆管結紮マウスを作製し、門脈平滑筋におけるTMEM16Aの発現および機能解析を行った。その結果、胆管結紮マウス由来門脈平滑筋では、TMEM16AのmRNA発現が50%低下していた。また、胆管結紮マウス由来門脈平滑筋細胞のカルシウム活性化クロライド電流は有意に減弱していた。門脈平滑筋の自発収縮におけるTMEM16A阻害薬感受性成分は、胆管結紮マウス由来門脈平滑筋で小さかった。次に、肝臓の障害時に生体内濃度が上昇する物質としてビリルビンとアンジオテンシンⅡに注目した。その結果、ビリルビンはTMEM16Aの機能を直接的(非ゲノム的)に抑制した。一方、アンジオテンシンⅡは発現調節機構を介してTMEM16Aの機能を間接的(ゲノム的)に抑制することが分かった。血管平滑筋におけるカルシウム活性化クロライドチャネルの活性化は、細胞膜の脱分極による電位依存性カルシウムチャネルの活性化を介して、血管収縮をもたらす。以上より、TMEM16Aの発現低下は門脈圧亢進症の悪化に対して抑制的に働くことが考えられる。本研究で得られた知見は、門脈圧亢進症における病態形成機構の解明につながることが期待される。
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