研究課題/領域番号 |
16K08279
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
五十嵐 信智 星薬科大学, 薬学部, 講師 (40409363)
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研究分担者 |
今 理紗子 星薬科大学, 先端生命科学研究所, 特任助教 (90779943)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アクアポリン / 腸内細菌 |
研究実績の概要 |
近年、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患、大腸癌などの消化管疾患患者が増加の一途をたどっており、社会的に大きな問題となっている。これらの疾患の発症には腸内細菌叢の異常が関与していると考えられているものの、その詳細はいまだ不明な点も多い。このような背景の中、申請者は昨年度、腸内細菌が大腸に存在する水チャネルアクアポリン(AQP)の発現量を制御することを見出し、腸内細菌叢の変動に伴う下痢の発症にAQPが機能分子となっていることを明らかにした。すなわち、腸内細菌が存在しないGFラットおよび腸内細菌が存在するSPFラットを用いて解析した結果、GFラットの糞中水分量はSPFラットに比べて高く、GFラットのAQPの発現量はSPFラットと比べて増減することを明らかにした。さらに、抗生物質であるシプロフロキサシンをラットに処置した際には、糞中水分量が増加し、大腸のAQPの発現量が変動することを見出し、この際のAQPの変動パターンならびに糞中水分量の変化は、GFラットのそれと同様であった。 今年度は、腸内細菌とAQPとの関係をさらに詳細に解析することを目的に、腸内細菌およびAQPを介して効果を発揮する下剤「大黄」とその配合漢方薬「大黄甘草湯」を用いて検討した。その結果、大黄甘草湯は大黄単剤とは異なり、連続投与しても瀉下作用が維持できることがわかった。これは、大黄甘草湯を投与した場合には、腸内細菌叢の恒常性が維持され、大腸におけるAQPの発現低下が維持されることにより生じたものと考えられた。以上の結果は、大黄甘草湯と大黄の適正使用について新たな知見を見出したことに加え、大腸のAQPと腸内細菌とのインターラクションを考える上で、有用な知見となり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは、腸内細菌叢の変動に伴う下痢や便秘を主徴とする消化管疾患の発症メカニズム解明を目的に、下剤として用いられる漢方薬「大黄甘草湯」とその活性生薬「大黄」を用いて、瀉下活性および大腸AQPに及ぼす腸内細菌の影響を解析した。 ラットに大黄甘草湯を7日間連続投与した際には、下痢の発症とともに大腸AQP3の発現低下が認められた。それに対して、大黄単剤を連続投与した際には、糞中水分量の有意な増加は見られず、AQP3の発現低下も認められなかった。さらに、大黄甘草湯を連続投与した場合にのみ、AQP3の発現低下に関与する胆汁酸の血中濃度が増加していることがわかった。以上のことから、大黄甘草湯連続投与による瀉下活性の維持に、胆汁酸濃度の上昇に伴うAQP3の低下が関わっているものと考えられた。 これらラットの腸内細菌叢を次世代シークエンサーにより解析したところ、大黄甘草湯投与群と大黄単剤投与群では菌叢に大きな違いがあった。例えば、Bacteroidaceaeの占有率は、大黄甘草湯を7日間連続投与した場合にはコントロール群と比べて約2倍増加していたのに対して、大黄単剤を連続投与した際には約1/10であった。Bacteroidaceaeは抱合型胆汁酸の脱抱合に関わる腸内細菌であることから、大黄甘草湯を投与した際には、Bacteroidaceaeの増加によって抱合型胆汁酸が減少し、胆汁酸の合成が亢進した結果、胆汁酸量が増大し、AQP3の発現低下が生じたものと考えられた。 以上の結果は、大黄甘草湯連続投与によるAQP3の発現低下維持機構として腸内細菌叢を介した胆汁酸濃度の変化が関与していることを示すものであった。腸内細菌とAQPとの関係が明らかになりつつあり、本年度の研究計画に基づいて、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、腸内細菌の変動により、大腸におけるAQPの発現量が変化することがわかった。しかしながら、このAQPの発現変動メカニズムの詳細は不明のままであった。今後、腸内細菌叢を変動させた種々モデル動物を用いて、腸内細菌叢と大腸AQPとの関係を調べ、AQPの発現制御機構について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に繰り越した分を今年度使用しきれず、次年度に繰り越すこととなった。なお、研究費は、ラット組織あるいは細胞からのタンパク抽出やRNA抽出、PCRの試薬および消耗品に用いる。また、メカニズム解析にあたり、トランスフェクションやDNAマイクロアレイ解析などを行う予定である。
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