近年、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患などの消化管疾患患者が増加の一途をたどっており、社会的に大きな問題となっている。これらの疾患の発症には腸内細菌叢の異常が関与していると考えられているものの、その詳細はいまだ不明な点も多い。このような背景の中、申請者は昨年度までに、大腸に存在する水チャネルアクアポリン(AQP)の発現量を腸内細菌が制御することを見出し、腸内細菌叢の変動に伴う下痢の発症に大腸のAQPが機能分子となっていることを明らかにした。すなわち、腸内細菌が存在しないGFラットの糞中水分量は、腸内細菌が存在するSPFラットに比べて高く、AQPの発現量はGFラットの方がSPFラットと比べて低いことを明らかにした。加えて、下剤として用いられている漢方薬「大黄甘草湯」の作用において、腸内細菌叢の恒常性維持が重要であることを見出した。 今年度は、腸内細菌に作用し、有益な効果を発揮することが謳われているプレバイオティクスがラット大腸のAQPに対してどのような影響を及ぼすのかを解析した。その結果、プレバイオティクスをラットに経口投与すると、糞中水分量が有意に増加することが明らかとなった。また、プレバイオティクスを投与することにより、大腸AQP3の発現量が有意に低下することがわかった。したがって、プレバイオティクスは腸内細菌に作用し、大腸AQP3を低下させ、大腸内から血管側への水の吸収を抑制し、糞中水分量を増加させることにより、便通改善効果を発揮すると考えられた。以上の結果は、これまでほとんどわかっていなかったプレバイオティクスの便通改善効果メカニズムを分子レベルで明らかにしたものであり、腸内細菌と消化管疾患との関係性を結びつける非常に有用な知見である。
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