研究課題/領域番号 |
16K08281
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
大石 一彦 明治薬科大学, 薬学部, 教授 (80203701)
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研究分担者 |
小川 泰弘 明治薬科大学, 薬学部, 講師 (00531948)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リソソーム病 / 神経分化 / iPS細胞 / アストログリオーシス |
研究実績の概要 |
平成28年度では、SDの発症前早期のSDモデルマウス(Hexb-/-)脳内での神経分化・発達異常の検証について検討を加えた。E13.5日齢に産生された新生神経を生後14日齢で解析したところ、コントロールマウスでは大脳皮質IV層に新生神経が最も多く局在していた。一方、SDマウスではⅥ層に新生神経が最も多く局在していた。このことより、SDマウスではコントロールと比較して胎仔期での神経の発生・分化の時期が異なっている、もしくは、新生神経細胞の移動が遅いことが示唆された。 次に、どのような遺伝子・シグナル分子が関わって神経系の分化・発達異常が起こり、SDの発症につながっていくのかを明らかにする目的で、Hexb遺伝子の欠損によって変化を受けた神経系への分化能低下に関わる特異的分子を解析した。SDマウス胎仔(E12.5)脳から調整した神経幹細胞をqPCRにて解析した結果、神経幹細胞の未分化維持やニューロンへの分化抑制に働くNotch1の発現が有意に減少していた。同様の結果は、5週齢のSDマウス脳海馬でも観察された。 次に、自己抗体を介した免疫応答の活性化やアストログリオーシスとの関連性を明らかにすることを目的として、SDモデルマウス(Hexb-/-)と免疫反応抑制マウス(FcRγ-/-)を組み合わせることで解析を行った。その結果、SDマウスでは、FcRγを介した免疫応答によりアストログリオーシスが発症前早期から起こっていること、そして、アストログリオーシスと運動障害は免疫抑制薬によって抑制できることが明らかとなった。以上のことより、胎生期での神経幹細胞の分化・発達異常が無症状期での活性化アストロサイトの増加やミクログリアなどの免疫系細胞の活性化を引き起こし、神経変性や神経細胞死が継時的に生じ発症する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SDの発症前早期に神経系の分化・発達異常が起こることを、in vitroとin vivoで明らかにすることを目的として、①SDマウス胎仔由来神経幹細胞の神経分化異常の検証、②SD-iPS細胞の神経分化異常の検証、③SDマウス脳内での神経分化・発達異常の検証、の3項目について検討した。①と②については神経系へのin vitro分化異常が観察され、SDの病態を反映したものであることを示した。③については、生後14日齢においてSDマウスの大脳皮質ではコントロールと比較して胎仔期での神経の発生・分化の時期が異なっており、新生神経細胞の移動が遅いことを示した。また、15週齢のSDマウス海馬で新生ニューロンの数が有意に減少していることを観察した。 次に、どのような遺伝子・シグナル分子が関わって神経系の分化・発達異常が起こり、SDの発症につながっていくのかを検討した。その結果、神経幹細胞の未分化維持やニューロンへの分化抑制に働くNotch1の関与の可能性を示した。しかし、Notchシグナル伝達系の機能解析には至っていない。この点については次年度に残された検討課題である。 次に、胎生期での神経幹細胞の分化・発達異常とアストログリオーシスとの関連性を解明することを目的として、SDモデルマウス(Hexb-/-)と免疫反応抑制マウス(FcRγ-/-)を組み合わせることで解析を行った。その結果、SDマウスでは、FcRγを介した免疫応答によりアストログリオーシスが発症前早期から起こっていること、そして、アストログリオーシスと運動障害は免疫抑制薬によって抑制できることが明らかになった。以上の結果は、「SDは、発症前早期に潜在する神経系の分化・発達異常が原因となり、脳神経系の機能が障害され発症する。」とする申請者独自の作業仮説を支持するものである。
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今後の研究の推進方策 |
Notch1の神経分化・発達異常への関与を検証する目的で、アデノウイルスベクターを用いてNotch intracellular domain (Notch ICD)を強制発現させ、SDマウス胎仔由来神経幹細胞やSD-iPS細胞の神経分化異常が回復するか検討する。 SD-iPS細胞から神経系へのin vitro分化系は、神経系の分化・発達異常に作用を及ぼす化合物のスクリーニング系として利用できる。すなわち、SDIA法ではPA6ストローマ細胞上で形成されるiPS細胞由来神経幹細胞からなるコロニーの数と大きさを指標に、SFEBq法ではiPS細胞由来神経幹細胞からなるembryoid bodyの大きさと形を指標にIn Cell Analyzer 2200を用いてハイスループットで化合物の効果を検討することができる。そこで次に、神経系の分化・発達異常を改善できる低分子化合物を探索する目的で、SD-iPS細胞を利用した創薬スクリーニング系により低分子化合物を探索しSD治療薬のシード化合物を見出す。 得られた神経分化異常を回復可能なシード化合物を、妊娠SDマウスに胎生期6日齢から胎生期15.5日齢まで腹腔内投与し、その後誕生したSDマウスについて症状観察し、生後8週齢以降で観察される四肢の振戦、驚愕反応、運動障害などが軽減されるか検討する。同時に、SDマウスで見られた胎生期4週齢での活性化アストロサイトやCD68陽性活性化ミクログリアの増加などが回復するかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 次年度使用額(B-A)25,427円は、消耗品の一部が当初より安価となっていたため生じたものである。 (使用計画) 次年度研究経費に上乗せし、次年度研究計画の遂行のために使用する予定である。
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