ザンドホッフ病(SD)モデルマウス由来iPS細胞(SD-iPS細胞)を神経系へ分化誘導すると、野生型マウスiPS細胞に比べて、SD-iPS細胞由来の神経幹細胞からのニューロンへの分化能が低下し、アストロサイトへの分化能が増大することをすでに明らかにしている。グルコシルセラミド合成酵素阻害薬であるミグルスタットによりGM2ガングリオシド等の蓄積を阻害すると、この分化異常が改善されることから、SD-iPS細胞における分化異常はGM2ガングリオシド等の蓄積に起因することが示唆された。そこで、レトロマー複合体に担われる逆行性輸送経路を亢進することで、リソソームへのGM2ガングリオシド等の蓄積を回避し、これが神経系への分化異常を改善するかを検討した。 SD-iPS細胞における分化異常が逆行性輸送の亢進によって改善されるかを検討する目的で、SD-iPS細胞にレトロマー複合体構成因子であるVPS35遺伝子を強発現したVPS35-iPS細胞を樹立し、これを神経系へ分化誘導した後、Tuj1及びGFAP抗体を用いて免疫抗体染色により検討した。SD-iPS細胞にGFP遺伝子を導入したGFP-iPS細胞と比較して、VPS35-iPS細胞ではニューロンへの分化が増加し、アストロサイトへの分化が減少した。次に、SD-iPS細胞における分化異常が、ケミカルシャペロンによって改善されるかを検討する目的で、VPS35を安定化させるレトロマー複合体安定化シャペロン化合物のR33を用いて同様に解析した。R33を処理したSD-iPS細胞では、非添加群と比較してニューロンへの分化が増加し、アストロサイトへの分化が減少した。同様の結果は、SDマウス由来の神経幹細胞でも得られた。 以上のことより、レトロマー複合体安定化シャペロン化合物は、SDの新規治療薬として有力な候補である可能性が示された。
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