研究課題/領域番号 |
16K08285
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
大矢 進 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (70275147)
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研究分担者 |
鬼頭 宏彰 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (40749181)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 慢性炎症 / イオンチャネル / 炎症性腸疾患 / Tリンパ球 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
自己免疫疾患・癌などの予防薬及び治療薬の開発戦略の中で、炎症慢性化のシグナルネットワーク制御機構の解明が注目されているが、炎症慢性化過程の細胞機能変動において、炎症性・抗炎症性リンパ球、マクロファージに機能発現するイオンチャネルがどのような病態生理学的役割を果たしているのかは明らかにされていない。本研究の目的は、炎症慢性化過程におけるイオンチャネル発現・活性変動の病態生理学的意義を明らかにし、慢性炎症関連疾患を克服するための新規イオンチャネル創薬戦略を考案、実証することである。 炎症慢性化進展過程におけるイオンチャネル発現・活性変動の機序とその病態生理学的意義を解明するために、本年度は次の3項目に関する研究を実施した。研究項目①慢性IBDモデルにおけるイオンチャネル発現・活性変動の解析、研究項目②イオンチャネル阻害剤による抗炎症性サイトカインIL-10発現調節機構の解明とIL-10高産生制御性T細胞の簡便作出法の開発、研究項目③エピジェネティック修飾によるイオンチャネル発現・活性変動の解析。 研究項目①に関して、急性及び慢性IBDモデルから単離した腹腔内マクロファージにおいて、炎症の誘導・悪化に寄与するM1マクロファージが増加すること、IBDモデルのM1マクロファージにおいてカルシウム活性化カリウムチャネルKCa3.1機能が亢進することを見出した。また研究項目②に関して、慢性IBDモデルへのKCa3.1阻害剤のin vivo投与によりIL-10発現・産生が増大することを見出し、IL-10発現リンパ細胞株HUT-78においても同様の結果が得られた。さらに研究項目③に関して、炎症性T細胞におけるKCa3.1転写亢進にヒストン脱アセチル化酵素が関与することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究項目は、①慢性IBDモデルにおけるイオンチャネル発現・活性変動の解析、②イオンチャネル阻害剤による抗炎症性サイトカインIL-10発現調節機構の解明であった。研究項目①については、主眼としている慢性IBDモデルにおけるT細胞のカリウムチャネル発現・活性変動の解析はほぼ終了し、M1マクロファージの解析が進行中である。研究項目②については、慢性IBDモデルにおけるカルシウム活性化カリウムチャネルKCa3.1阻害剤のin vivo投与によるIL-10発現亢進に関する再現性は確認できたものの、IBDモデルからの制御性T細胞の単離、特性維持の条件設定が難しく、培養系でのKCa3.1阻害剤によるIL-10発現亢進の再現とその分子機構の解明については当初の目標を達成できていない。しかし、IL-10発現細胞株HUT-78の導入により、IL-10発現調節機構の解明については現在予想される結果が得られつつある。また、平成29年度以降開始予定の研究項目⑤に関する研究を既に開始し、IBD病態における炎症性T細胞KCa3.1の発現亢進機構を一部明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目①については、M1マクロファージにおけるイオンチャネル発現・活性変動とそれによる炎症性サイトカイン産生の関係を明らかにする。研究項目②については、in vivo及び細胞系での研究成果を統合し、IL-10産生機構におけるKCa3.1及びその他のイオンチャネルの役割を明らかにする。特に、TGF-beta1及びその下流SMADシグナルに着目する。研究項目⑤についてもin vivo及び細胞系の両面からKCa3.1のエピジェネティック制御機構を解明する。前述の平成28年度からの継続研究に加えて、平成29年度は、研究項目③炎症慢性化によるイオンチャネル関連細胞膜マイクロドメイン形成異常の解析、研究項目④スプライシング阻害剤、ユビキチンE3リガーゼ阻害剤によるイオンチャネル発現・活性変動の解析を実施する。 研究項目③:慢性IBDモデルマウスのイオンチャネル発現・活性変動と免疫シナプス形成関連分子・炎症関連細胞表面分子(例えばCD81)の細胞膜マイクロドメイン形成変動との関連について共焦点レーザー顕微鏡を用いてイメージング解析する。また、免疫応答刺激をした際の免疫シナプス形成過程におけるイオンチャネル及びその制御分子の分子挙動をライブイメージング解析する。 研究項目④:in vivoまたは培養細胞系にスプライシング阻害剤、選択的ユビキチンE3リガーゼ阻害剤を投与した際のIBD症状の改善効果、KCa3.1及びK2P5.1のスプライシング体の発現変動、Tリンパ球及びマクロファージにおけるKCa3.1及びK2P5.1の活性変動について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
炎症性腸疾患モデルマウスからCD4陽性T細胞を単離して行う実験を一部減らし、IL-10発現細胞株を用いた実験に変更した。そのため、消耗品費のうち、実験動物(マウス)と細胞分離精製試薬の費用が20万円程度減少した。一方、細胞培養関連器具・試薬と薬理学実験用試薬の費用が5万円程度増加した。結果的に、15万円程度を次年度使用額として繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度研究経費120万円と次年度使用額約14万円を合わせた134万円の使用計画は次の通りである。特に慢性炎症性腸疾患モデルにおけるIL-10発現増大機構の解明に注力するため、実験動物(マウス)と細胞分離精製試薬、免疫化学関連試薬の割合を予定よりも増加する。消耗品費940千円(内訳:実験動物(マウス)200千円、細胞分離精製試薬210千円、遺伝子工学関連試薬90千円、免疫化学関連試薬160千円、機能解析試薬60千円、細胞培養関連100千円、薬理学実験用試薬80千円、データ保管用ハードディスク40千円)、旅費200千円、その他(論文校閲、掲載料)200千円。
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