自己免疫疾患・癌などの予防・治療薬の開発戦略の中で、炎症慢性化のシグナル制御機構の解明が注目されている。しかし、炎症慢性化過程において、イオンチャネルがどのような病態生理学的役割を果たしているか明らかにされていない。本研究課題の目的は、炎症慢性化過程におけるイオンチャネル発現・活性変動の病態生理学的意義を明らかにし、慢性炎症関連疾患を克服するための新規イオンチャネル創薬戦略を考案、実証することである。 本年度の研究実施計画は、①Smadシグナルを介したIL-10転写制御のメカニズム解明、②慢性炎症性腸疾患(IBD)モデルマウスの制御性T細胞におけるK+チャネルの病態生理学的意義の解明、③エピジェネティック修飾によるK+チャネル発現・活性変動の解析である。研究実施計画①では、KCa3.1活性化薬によるIL-10転写抑制の分子メカニズムを解明した。KCa3.1活性化薬によるカルモジュリンキナーゼIIの活性化はSmad2のリン酸化を抑制し、リン酸化Smad2の核内移行を阻害した(Matsui M. et al. Mol Pharmacol. 2019)。研究実施計画②では、慢性IBDモデルマウスにKCa3.1阻害薬をin vivo投与すると、緩解期において制御性T細胞におけるIL-10発現が上昇していることを明らかにした。研究実施計画①で明らかにした分子メカニズムが関与していると推測される。研究実施計画③では、IBDモデルマウスの炎症性T細胞におけるKCa3.1遺伝子発現亢進にヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)によるエピジェネティクス制御が関与することを明らかにした(Matsui M. et al. Int J Mol Sci. 2018)。一方、K2P5.1遺伝子発現亢進には炎症に伴う低酸素環境を介した低酸素誘導因子(HIF)シグナルが関与する可能性を見出した。
|