SIGIRRはⅠ型膜貫通タンパク質であり、抗炎症性サイトカインIL-37bをリガンドとしてToll-like receptors(TLRs)等の炎症性シグナル伝達を抑制する。本研究課題では、慢性呼吸器炎症を主病変とする嚢胞性線維症(CF)の気道上皮細胞に着目し、炎症抑制性IL-37b-SIGIRR経路がCF病態にどのように関与し得るかその病態生理的役割を解明する。 前年度までの結果から、CF細胞ではSIGIRRの細胞膜上発現量が低下することによりIL-37b-SIGIRR経路による抗炎症作用が消失していること、またその細胞膜上発現低下はSIGIRRのExon8が欠損したΔ8-SIGIRR発現により引き起こされている可能性が示唆された。 そこで当該年度は、Δ8-SIGIRRの細胞内制御(発現および分解、細胞内局在)と野生型SIGIRR(WT-SIGIRR)に対するΔ8-SIGIRR発現の影響を検討した。 正常の細胞株および初代培養細胞において、CFの原因遺伝子であるCFTRの阻害およびノックダウンを行った所、スプライススイッチが誘導され、Δ8-SIGIRR mRNAの発現量が増加した。更にCF細胞ではΔ8-SIGIRRタンパク質の半減期が延長していたことから、CF細胞におけるΔ8-SIGIRR発現はmRNAおよびタンパク質レベルで正の制御を受けていることが明らかになった。またΔ8-SIGIRRは膜上へ発現せず小胞体内に留まり、WT-SIGIRRと共局在してその膜上発現を抑制した。 以上の結果より、CF特異的なSIGIRR細胞膜上発現の低下とそれに伴う炎症抑制性IL-37b-SIGIRR 経路の破綻に、Δ8-SIGIRRによるドミナントネガティブ作用が関与することが明らかになった。本知見は、SIGIRRのスプライススイッチがCF呼吸器炎症を増悪化することを示唆する初めての報告である。
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