研究課題/領域番号 |
16K08296
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 宏幸 九州大学, 薬学研究院, 准教授 (30253470)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルテミシニン / Artemisia annua / Quenchbody / イムノアッセイ |
研究実績の概要 |
アルテミシニンは極めて有効は抗マラリア薬として見出され、現在治療に活用されている天然化合物である。申請者は、昨年度実現できなかったアルテミシニンに対する高い特異性を有するモノクローナル抗体の作製を試みた。各種ハプテンを新たに合成し、免疫原である蛋白質コンジュゲートを調製した後、マウスに免疫感作を行った結果、目的とする極めて高い特異性を有するモノクローナル抗体を得ることができなかった。その原因としては、新たに合成したハプテンがマウス生体内で分解した結果、アルテミシニンの重要な構造が変化し、アルテミシニンを特異的に認識する抗体が産生されなかったと考察している。そこで、これまでに確立していたアルテミシニン及びいくつかのアルテミシニン関連化合物を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを用いて、Quenchbody(Q-body)の作製を精力的に実施した。Q-bodyの調製には、無細胞翻訳系と細胞を用いた翻訳系を検討した。無細胞翻訳系を用いた結果、その収率は極めて低く、詳細な機能の解析を行うことができなかった。そこで、大腸菌を用いた翻訳系による抗体の大量調製を試みたところ、Q-bodyの機能解析を実施できる収量で、目的とする各種抗体断片を得ることに成功した。続いて、大腸菌を用いて発現したVH-CH1、VL-CL各断片を精製した後、それらを蛍光色素により修飾した。現在、アルテミシニンの定量系に応用すべく、調製したQ-body断片を用いたイムノアッセイの構築に取り組んでいる。具体的には、簡便・高感度な直接法によるアルテミシニンの検出を実現し、さらに、測定感度やアルテミシニン関連化合物に対する交差反応性を調査することで、その性能を評価する実験を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Q-bodyの調製には、当初の計画通りに無細胞翻訳系と大腸菌を用いた翻訳系を検討した。まず、Q-bodyを構成する各断片の効率的な調製法を検討した。計画段階で危惧したように、無細胞翻訳系では、活性を保持した抗体を比較的容易に得ることができるものの、生成量が極めて少量であり、十分な量のQ-body断片を得ることができなかった。しかしながら、大腸菌を宿主とした発現システムを試みた結果、期待したレベルの収率を得ることを実現でき、今年度、機能解析を進めることが可能なレベルのQ-bodyの大量調製を目標通りに達成した。さらに、蛍光色素で各Q-body断片を修飾することにも成功した。現在、直接的手法によるアルテミシニンを対象としたイムノアッセイの開発を計画通りに遂行している。以上の実施内容を総合的に判断すると、おおむね順調に研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
Q-bodyは、抗体内に存在するトリプトファンにより標識された蛍光色素の蛍光が消光されており、抗原が結合することによりその消光が解除されて蛍光強度が増強し、直接的なイムノアッセイを可能とする先端的でユニークなツールである。新規蛍光免疫測定素子として登場したQ-bodyを用いて、これまでにモルヒネ、コカイン、メタンフェタミンなど乱用薬物を対象とした高感度分析が報告されている。しかしながら、これまでに報告されているQ-bodyの種類は限られており、今後益々その適用拡大が期待できる。申請者は、自製した多数の天然有用化合物に対するモノクローナル抗体の中から抗アルテミシニンモノクローナル抗体を選定し、各種抗アルテミシニンQ-bodyを作製し、イムノアッセイに適した性能を持ったものを効率良く得る実験を本課題で鋭意進めてきた。その結果、これまでに、大腸菌を宿主としたQ-body断片の発現に成功した。今後、精製した各種Q-body断片の巻き戻し条件を詳細に検討し、活性を有するQ-bodyを安定して調製する手法を構築することが本研究の成否を決める重要な課題である。活性のあるQ-bodyを調製した後には、アルテミシニンの直接的分析法を構築し、原料植物であるArtemisia annua中アルテミシニンの測定系確立を目標として研究を推進していく計画である。
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