研究課題/領域番号 |
16K08311
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
金田 典雄 名城大学, 薬学部, 教授 (00144139)
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研究分担者 |
村田 富保 名城大学, 薬学部, 准教授 (80285189)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 抗腫瘍活性 / イソフラボン / アポトーシス / 白血病細胞株 / リンパ腫細胞株 / グリオキサラーゼI / メチルグリオキサール |
研究実績の概要 |
申請者らはこれまでにボリビアデイゴErythrina poeppigianaの樹皮からグリオキサラーゼI(GLO-I)阻害活性とヒト急性骨髄球性白血病細胞株HL-60に対する強力な細胞死誘導活性を有するイソフラボン化合物であるエリポエギンKを単離した。また、エリポエギンKには(S)体および(R)体の2つの光学異性体が存在し、(S)体にのみ細胞死誘導活性のあることを示している。 本研究では、化学合成したエリポエギンK(ラセミ体)500mgから、分取型キラルカラムを用いて(S)-および(R)-エリポエギンKを分離し、各種ヒト腫瘍細胞株に対する細胞死誘導活性を評価した。ヒト造血器腫瘍細胞としてHL-60以外にB細胞性リンパ腫細胞株DHL4、DHL10、Raji、Daudi、T細胞性リンパ腫細胞株TK6を用いた。ヒト固形がんとして胃がん細胞株GCIYを用いた。これらの腫瘍細胞株に対するエリポエギンKの細胞死誘導活性(IC50値)は、それぞれ0.18μM(ラセミ)、1.0μM(ラセミ)、0.81μM(ラセミ)、1.4μM(ラセミ)、0.70μM、0.27μMであった。培養上清中のメチルグリオキサールを定量したところ、HL-60とTK-6ではエリポエギンK添加後、経時的にメチルグリオキサールの産生が見られ、細胞内GLO-Iを阻害していることが示唆されたが、DHL4、Raji、Daudi、GCIYではメチルグリオキサールの蓄積は見られなかった。またDHL10は中程度のメチルグリオキサールの蓄積がみられたが、カスパーゼ3の活性化は見られなかった。 以上のことから、エリポエギンKの細胞死誘導機構にはGLO-Iの阻害を介して、メチルグリオキサールの蓄積を引き起こし、アポトーシスを誘導するものと、GLO-I以外の作用点を介して、細胞死を誘導するものがあることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エリポエギンKによる細胞死誘導活性を種々の造血器腫瘍細胞株を用いて検討したところ、HL-60とTK-6ではエリポエギンK添加後、メチルグリオキサールが蓄積し、カスパーゼ3の活性化が見られ、アポトーシスが誘導されたが、それ以外の細胞株では、細胞死は誘導されるもののメチルグリオキサールの蓄積は見られず、またカスパーゼ3の活性化なしに細胞死が誘導された。このことから、エリポエギンKの作用機構は当初想定したGLO-Iの阻害によるものだけでなく、未知の作用機構があることが示されたため。
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今後の研究の推進方策 |
1. エリポエギンKの腫瘍モデルマウスにおける腫瘍縮小、延命効果についての検討 HL-60またはGCIY細胞をヌードマウスに移植し、移植後、(S)-ならびに(R)-エリポエギンKを核種濃度で腹腔内投与し、腫瘍形成の抑制または縮小効果を既知の抗がん剤である5-フルオロウラシルの効果と比較しながら評価する。 2. エリポエギンKの未知の標的タンパク質の探索 エリポエギンKのイソフラボン骨格B環のフェノール性OH基は反応性が高いことを利用して、(S)-および(R)体にそれぞれエポキシ化磁気ビーズを反応させ、エリポエギンK固定化アフィニティービーズを作成する。HL-60またはGCIY細胞抽出液と上記アフィニティー担体を反応させ、結合タンパク質をSDS-PAGEで分離後、タンデム質量分析法によるペプチドフラグメントの同定、プロテインデータベース検索により、結合タンパク質を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞培養実験に用いる試薬、ウシ胎児血清、培養用プラスチック器具、プラスチックピペットなどの使用量が当初予定のものより少量で済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
今後、ヌードマウスにヒト腫瘍細胞を移植したモデル動物を作成し、(S)-エリポエギンKのin vivoにおける抗腫瘍活性を評価する。そのために用いるヌードマウスの数を当初予定より増加させる。
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