申請者らはこれまでにボリビアデイゴErythina poeppigianaの樹皮からヒト白血病細胞株HL-60に対する強力な細胞死誘導活性を有するイソフラボン化合物であるエリポエギンKを単離した。エリポエギンKには(S)体および(R)体の2つの光学異性体が存在し、(S)体のみ細胞死誘導活性がある。 本研究では、ゲニステインを出発材料として不斉合成を行い、グラム単位で光学純度96%以上の各光学異性体を得ることに成功した。 これらを用いて、HL-60細胞以外に各種のB細胞性リンパ腫細胞株に対する細胞死誘導活性を評価した。その結果、DHL-4、DHL-10、Raji細胞では細胞死はみられたが、アポトーシスではなかった。このことからエリポエギンKによる細胞死誘導作用は細胞依存的であった。次にエリポエギンKのin vivoにおける抗腫瘍効果を検討するため、ヌードマウス皮下に胃がん細胞株GCIYを移植し、(S)-および(R)-エリポエギンKを腹腔内に毎週投与(10mg/Kg体重)したところ、(S)-体では、(R)体に比べて有意に腫瘍組織の増殖抑制効果が見られた。この腫瘍抑制効果は、5-フルオロウラシルと同等かそれ以上であった 次に標的タンパク質探索用アフィニティービーズの作成のため、フェノール性水酸基の修飾を試みたところ、修飾によってHL-60に対する細胞死誘導活性が消滅した。そこで光親和性小分子固定化法を試みたが、この方法においても有意な標的タンパク質の同定ができなかった。そこで文科省モデル動物支援プラットフォームの支援事業のがん細胞パネルによる標的分子の推定を行った結果、既存の抗がん剤の一つと類似のプロフィールを示し、かつより低濃度で有効であることが示唆された。このことは、(S)エリポエギンKがより有効な抗がん剤のシード化合物となる可能性を示している。
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