研究課題/領域番号 |
16K08315
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
窪田 香織 福岡大学, 薬学部, 助教 (60380557)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 神経変性 / 漢方薬 |
研究実績の概要 |
認知症の諸症状を改善する漢方薬「抑肝散」が脚光を浴びている。我々はこれまでの研究において、抑肝散はセロトニン神経系やアセチルコリン神経系を賦活して認知機能障害など認知症の諸症状を改善すること、これには神経保護効果が寄与することを明らかにしてきた。さらに、抑肝散には神経の分化・再生など神経の機能維持に重要な神経栄養因子と類似した作用あることを見出した。このように抑肝散には神経栄養因子様作用があり、神経保護や神経突起(軸索)伸展・神経新生作用を持つ可能性が示唆されたが、変性神経に対する保護・機能改善効果の詳細は未だ不明である。 そこで当研究では、脳内細胞構成を反映した新規神経変性モデルを用いて、神経変性や軸索伸展に対する抑肝散の『神経栄養因子様作用』を検証し、抑肝散を新たな認知症治療薬として確立させることを目的に研究を遂行している。 初年度である当該年度は、シナプス数減少などの神経機能低下や軸索退縮などの神経形態変化を反映するニューロン・アストロサイト共培養系オータプス培養標本の構築を行った。通常のニューロン分散培養では、ニューロン同士が複雑に軸索を伸展して互いにシナプスを形成するため、一つのニューロンに対する軸索やシナプス解析が難しいが、ガラス基板上にドット状にアストロサイトを培養して接着領域を区分化し、そのアストロサイト層上に単一ニューロンを独立して培養することができるため、複雑な神経回路を簡素化して解析することが可能となった。また、ニューロンやアストロサイトの種類や混成比を制御することもできるようになった。さらに、この培養標本に各処置を施し、軸索退縮やシナプス機能低下などの神経変性を反映させたモデルの構築を行った。その結果、長期培養アストロサイトを用いたシナプス伝達低下加齢モデルや、Aβ処置による神経変性モデル、Sema3A処置による軸索特異的変性モデルなどを構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オータプス培養標本を用いて神経機能低下や神経形態変化等の神経変性過程の各状態を反映した新規神経変性モデルを構築し、漢方薬・抑肝散の神経変性に対する改善効果を検証する本研究のうち、当該年度は神経変性を反映した新規モデルの開発を計画していた。その中で、加齢や神経変性を想定した処置を施した新規神経変性モデルの構築がほぼ達成された。 次年度は、このモデル培養系を用いて抑肝散の神経変性に対する改善効果の検討を実施する予定であり、その実施に速やかに移行できる状態である。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の研究はおおむね順調に進み、計画していた神経形態変化を反映するニューロン・アストロサイト培養モデルの構築が完了した。今後は、このモデルの神経形態や神経機能の詳細な解析を続けていく予定である。 神経変性に対して抑肝散の神経栄養因子様作用が改善効果を示すか、ニューロン形態を免疫染色法で、シナプス機能を蛍光イメージング法で検討し、認知症をはじめとする神経変性疾患に対する新規予防・治療法に繋げる。
|