研究課題
ガレクチン9は様々な受容体に結合して多岐にわたる薬理作用を示すが、その複雑さゆえに薬物としての開発は困難である。本研究の目的は大腸ガンに特異的に送達されるガレクチン9を作成し、それが本来のガレクチン9同様に抗ガン作用を示すか調べることにある。この戦略が成功すれば、ガレクチン9の作用を限定的に発揮させることが可能になり、薬物としての開発が容易になると考えられる。またガレクチン9は薬剤耐性のKRAS変異大腸ガンを特異的に殺傷するため、本研究で予定している in vivo 実験で有効性が確認できた場合には、Unmet medical needs を満たす新規シーズとして開発できる可能性がある。ガレクチン9を大腸ガン特異的に送達するために、ヒトEGFRに特異的な一本鎖抗体 scFv425を用いた。scFv425は分子量が通常の抗体の1/5(約30,000)であることから、ガレクチン9との融合タンパク質作製に適している。融合タンパク質ガレクチン9-scFv425 は大腸菌発現系を用いて調製した。またin vitro結合アッセイ系を作製し、融合タンパク質がガレクチン9によるレクチン活性とscFv425によるEGFR結合活性の両方を併せ持つことを確認した。ところがこの融合タンパク質の大腸ガン殺傷作用は、本来のガレクチン9より劣っており、scFv425 による立体障害の影響が疑われた。またガレクチン9-scFv425 の生産量は非常に低く、効率の良い発現系を見出すことが求められている。これらの問題が起こる可能性は研究計画当初から想定されており、現在、研究計画に従って問題解決に取り組んでいるところである。
2: おおむね順調に進展している
予備検討で作製したガレクチン9-scFv425を用いて実験したところ、KRAS 変異大腸ガンに対する細胞死誘導活性はガレクチン9よりも劣っていた。ガレクチン9が同ガンに細胞死を誘導する際には、ガレクチン9が細胞内部に取り込まれ、オートファジー関連タンパク質と相互作用することが必要である。ガレクチン9送達用に付加したscFv425がこの過程を阻害している可能性がある。ガレクチン9-scFv425の生産系として現時点で最も有望なのはSHuffleという大腸菌発現系であるが、活性のあるリコンビナントタンパク質の収量は培養液1Lあたり0.2 mgしかなく大幅な改善を要する。この大腸菌発現系は細胞内部でジスルフィド結合を形成させる酵素PDIを発現しており、またそもそもガレクチン9-scFv425の発現量が低い。低発現量であることが反って活性のあるリコンビナントタンパク質の合成に優位に働いている可能性が考えられた。これらの観察よりPDIを大量発現し、且つガレクチン9-scFv425の発現量を段階的に低下させる発現系を作製して検討を始めた。
ガレクチン9に負荷された scFv425 による立体障害が KRAS 変異大腸ガンへの細胞死誘導活性を低下させている可能性が考えられる。そこで scFv より小型の抗体である nanobody を結合したガレクチン9-nanobody を作成し、KRAS 変異大腸ガンへの作用を調べる。またガレクチン9と scFv425 または nanobody をつなぐリンカーを、大腸ガンが発現するプロテアーゼで分解されるタイプに代えて活性を調べる。これと並行して大量発現を可能にする発現系の検討を継続する。モデルタンパク質としてガレクチン9-scFv425 を用いる。発現系の最適化は本年度末まで行い、その時点までで最良の系を用いて大量発現・精製を行う。最終年度(平成30年度)は精製リコンビナントタンパク質を用いて、KRAS 変異大腸ガンへの特異的な送達と、in vivo での薬効を調べる予定である。
学会に参加しなかったためと、謝金を別の助成金より捻出することが出来たために差額が生じた。
差額は本年度の物品費に充てる予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
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