研究課題/領域番号 |
16K08321
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
折本 裕一 九州大学, グリーンアジア国際リーダー教育センター, 助教 (00398108)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子標的薬 / 結合エネルギー / 分子認識 / 蛋白質 / 電子状態 / 構造最適化(エネルギー勾配法) / スルースペース/ボンド軌道相互作用 / オーダーN Elongation法 |
研究実績の概要 |
抗ガン治療に使われる分子標的薬をはじめとして生体内の分子認識反応はホスト-ゲスト間に働く相互作用をきっかけに協同的な構造変化を伴いお互いを認識する複雑な現象であり、医・薬学の中心的テーマである。本研究では、巨大系中の分子認識に伴う構造変化と結合エネルギーについて、個別の軌道相互作用の寄与を電子状態を厳密に扱う非経験的な量子化学計算レベルにおいて定量評価可能な手法構築を目指している。 相互作用カット前後の比較により分子認識過程における構造変化や結合エネルギーについて軌道相互作用単位で個々の寄与を定量評価できるような新規結合エネルギー評価法実現のため、平成28年度はまず、本課題の基盤技術であるThrough-Space/Bond (TS/TB)相互作用解析法を構造最適化手法(エネルギー勾配法)と結合させ、特定の軌道間相互作用をカットした仮想状態下での最適化構造を得るためのTS/TB-OPT解析法の開発を進めた。ここでTS/TB解析法は、人為的な軌道収縮により分子内の特定の軌道相互作用をカットし、カット前後の比較からその寄与を非経験的レベルで定量解析できる手法である。さらなる手法改良・調整とテストが必要ではあるが、TS/TB法とエネルギー勾配法の結合作業については完了し、分子認識の小さなモデル系(例えば活性中心ポケット+薬剤分子のみ)を想定した検証計算について現在検討を進めている。 平成29年度は、初年度に間に合わなかったTS/TB-OPT法による検証計算および手法の改良・調整を細心の注意を払いつつも効率的に進め、当初H29年度実施予定であった巨大系への適用のための高分子の高精度・高効率電子状態計算法であるElongation法との結合(ELG-TSTB-OPT解析法)、および、タンパク質-薬剤分子系に対する応用検証について、なるべく早い時期での着手を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、平成28年度の前半にThrough-Space/Bond (TS/TB)相互作用解析法を構造最適化手法(エネルギー勾配法)と結合させ、年度後半には、当該開発手法(TS/TB-OPT法)を用いた検証計算と手法改良・調整を行う予定であったが、結合作業についてTS/TB法の骨格を見直す必要性が出たため予想以上に開発時間がかかり、当初の計画に遅れが出た。手法の検証計算が年度内に間に合わなかったが、最重要部分であるTS/TB-OPT解析法については結合作業が完了したことを受け、「おおむね順調に進展している」という自己評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度に終わらなかったTS/TB-OPT法による検証計算および手法の改良・調整をH29年度前半のなるべく早い段階を目処に実施していく。その後、当初H29年度に予定していた、本TS/TB-OPT法を巨大系へ適用可能とするための高分子の高精度・高効率電子状態計算法であるElongation法との結合(ELG-TSTB-OPT解析法)について開発を進める。ELG法は、高分子の重合反応のように電子状態を伸長する方法であるが、反応末端に局在化させた領域局在化分子軌道(RLMO)と付加ユニット間の相互作用のみ対角化問題に取り入れることで巨大系の高速計算を実現する。手法の結合作業について具体的には、TS/TB-OPT法で用いる各種原子軌道積分をELG法から得られたRLMOベースに変換することで、系全体の電子状態を考慮しつつその一部(例えば“薬理活性部位+薬剤分子”)に対して特定の相互作用をカットした状態での構造最適化を可能とし、軌道相互作用単位で構造変化や結合エネルギーへの寄与を解析できるよう開発する。さらに、応用検証として、なるべくモデル化していないタンパク質-薬剤分子系に適用し、巨大系においても分子認識時の構造変化や結合エネルギーに対する個々の軌道相互作用の寄与を高精度かつ高効率に評価できることを確認する。 研究推進において配慮する点として、研究過程で困難にぶつかった場合に、適宜、計算対象の簡単化や問題の切り分け、手法の見直しなど原点に立ち戻って再検証し、着実な前進を心掛ける。研究協力者とも随時意見交換を行いつつ問題解決にあたる。基盤手法であるTS/TB解析法の定量性や、ELG法の高精度・高効率性などの特長が損なわれることの無いよう十分に注意する。本課題の目標、意義を常に意識しつつ必要に応じて研究計画の見直しを行う。その際、優先順位を明確にして着実に計画を遂行していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、H28年度後半には、年度前半に開発したTS/TB-OPT法を分子認識モデル系に適用して手法の妥当性を検証する予定であったが、TS/TB法とエネルギー勾配法の結合作業に予想を超える開発時間が必要となったため、当該段階まで計画を進めることができなかった。計算資源が必要となるフェーズに達しなかったことを受け、予定していたPCおよび関連部品の購入の一部、大型計算機レンタル、計算・データ解析に関する謝金について見送ったため、予定使用額に達しなかった。同様に、研究の進捗に関連して、打合せ等にかかる旅費も予定を下回った。
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次年度使用額の使用計画 |
これらの項目の使用計画として、H29年度内の方法論開発と応用検証計算に適宜組み込む予定であるが、計算資源の確保については、状況に応じて計画の見直しを行うことで、無駄を生じないように十分留意する。H29年度は使用額が大きくなるが、効果的に運用するよう細心の注意を払いつつ研究を進めていく。
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