研究課題
本研究は、幹細胞をニューロンへ分化誘導させる作用をもつ低分子化合物の創製を目的としている。我々はこれまでにニューロンへの分化を誘導する化合物としてビタミンKを見出しており、作用の増強を狙って側鎖末端に様々な官能基を導入した誘導体を合成してきた。その結果、側鎖末端にベンゼン環をもつ化合物に強い分化誘導作用が認められた。そこで、さらなる分化誘導活性の増強を期待して、このベンゼン環に幾つかのメチル基を導入した化合物を合成した。得られた化合物の分化誘導活性は、メチル基を結合させた数と位置によって異なることが明らかとなった。興味深いことに、メチル基を2つ導入した化合物の中には、ニューロンへの分化を促進するものと、反対に強く抑制するものが見られた。そこで、これらの化合物がどのようなメカニズムで幹細胞の分化を制御しているのかを調べるために、作用発現に関係するタンパク質をpull-down法によって探索するためのリガンドを合成した。すなわち、最も分化を誘導した誘導体と、反対に最も分化を抑制した誘導体にリンカーを介してビオチンで標識した化合物を得た。さらに、細胞・組織内動態を明らかにするためにビタミンKの蛍光標識体の合成も同時に行い、細胞内のビタミンK特異的結合タンパク質であるsteroid and xenobiotic receptorと結合することを確かめた。現在これらのリガンドを用いて、神経分化に関係するビタミンK誘導体の作用タンパク質の解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
今年度は側鎖末端にベンゼン環をもつビタミンKに、2~3個のメチル基を有する誘導体を新たに合成し、化合物ライブラリーの充足を行うことができた。この化合物ライブラリーからニューロンへの分化を強く誘導・抑制する誘導体が得られたため、当初から計画していた通り、それらの化合物についてニューロンへの分化を制御するメカニズムを明らかにするためのツールに応用した。その手法として、最も分化を誘導した化合物と最も抑制した化合物について、リンカーを介してビオチンで標識体を合成し、pull-down法によってビタミンK誘導体に結合するタンパク質を単離・同定する方法を試みている。また、ビタミンKに蛍光物質を結合させた標識化合物も合成を完了している。これがビタミンKの性質を保持しており、細胞内のビタミンK特異的結合タンパク質に結合することを確かめた。これらの標識化合物を用いて、ビタミンKが関係している幹細胞からニューロンへの分化に関するタンパク質の解析を進めている。これらのことから、我々の研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
これまでに合成した標識化合物を用いて今後さらに解析を行い、ビタミンKの神経分化に関する作用タンパク質を明らかにすると同時に、そのタンパク質に強力に作用するリガンドの設計・合成を行う。一方で、細胞レベルで高活性を示した化合物については、アルツハイマーや脳梗塞などの病態モデル動物に対して活性評価を行い、有効性を確かめて行く。その過程でドラッグデザインを種々検討し、最も有効な化合物を見出して行く予定である。
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