研究課題/領域番号 |
16K08326
|
研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
田畑 英嗣 帝京大学, 薬学部, 准教授 (80445634)
|
研究分担者 |
夏苅 英昭 新潟薬科大学, 薬学部, 客員研究員 (00334334)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | スルホンアミド / 軸不斉 |
研究実績の概要 |
医薬品の基本構造として利用されているジベンゾラクタム類やベンゾアゼピ(ノ)ン類などの7員環化合物ならびにカルバゾール類、ピロール類などの複素環化合物について、軸性キラリティーを表出させ、立体構造や化学反応性などを明らかにしてきた。また、構造活性相関研究によってアミド結合に由来する軸性キラリティーが生物活性の発現に極めて重要な要因であることも立証している。 平成30年度は、前年度に引き続きアミドならびにスルホンアミドの軸不斉に基づく研究をさらに発展させ、スルホンアミドに潜在する軸性キラリティーと生物活性との関連を詳細に検討するとともに、軸性キラリティーの制御を目指した検討を行った。また、分子内にスルホンアミド構造を有するボノプラザン(消化性潰瘍治療薬)についても軸性キラリティーを表出させるとともに、活性発現に寄与しているコンホメーションの解明を目指した。スルホンアミド構造を有するベンゾジアゼピノン誘導体にも軸不斉が存在することが明らかになり、さらに軸不斉異性体と生物活性との関連を調べた結果、スルホンアミド軸不斉に基づくエナンチオマー間で癌細胞増殖抑制活性に著しい差が認められた。この結果を踏まえて、より多くの誘導体を合成し、構造活性相関研究や癌細胞の選択性などを検討し、環構造の大きさや置換基による立体構造の変化が活性に強く影響していることがわかった。 一方、軸不斉の制御については、アミド軸不斉の立体化学に関する知見から、安定性の高い中心不斉と軸不斉を連動させることによって、軸不斉のコンホメーションを支配することができると考えた。ベンゾジアゼピノン環部分に置換基を導入した誘導体で検討した結果、軸不斉が中心不斉に誘起され、ジアステレオマー間で選択性に差が認められた。反応条件や置換基の位置を検討することでより高い選択性で所望の立体構造を構築できることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに癌細胞増殖抑制活性に対してスルホンアミド軸不斉が強く影響していることが明らかとなったことから、平成30年度は周辺化合物を合成し、置換基効果や立体構造の影響を詳細に検討することとした。また、高活性を示す軸不斉構造を効率的、かつ簡便に得るための手法の開発を目指した。 活性発現に必要と考えられる側鎖部分を含めた立体構造はベンゾジアゼピノン部分への様々な置換基の導入によって大きく変化すると予想されることから、立体障害の大きな置換基の有無や環の大きさを変えた誘導体を合成し、活性評価を行った。8員環構造に変えたベンゾジアゼシノン誘導体では環構造のひずみにより側鎖が反対側を向い異なるコンホメーションをとることがわかった。抗腫瘍活性を測定した結果、活性に大きな低下が見られ、軸不斉構造のみならず側鎖のコンホメーションも強く寄与することが明らかとなった。軸不斉構造が抗腫瘍活性に寄与していることが明らかとなったことから、併せて高活性を示す立体構造の誘導体を得るために基本構造に不斉中心を導入したスルホンアミド誘導体を合成し、立体化学を調べた。軸不斉と中心不斉によりジアステレオマーの存在が予想されたが、興味深いことに高い選択性で一方のジアステレオマーが得られることがわかった。これは不斉中心が安定なコンホメーションをとる際に、軸のコンホメーションが誘起されたためと考えられる。キラルな基質を用いて基本構造を構築することで、容易に所望の立体構造を有する誘導体を得ることができると考えている。 以上のように、抗腫瘍活性に対するスルホンアミド軸不斉および立体構造の影響を詳細に解明できた。さらに、軸性キラリティーの制御に繋がる不斉中心と軸不斉の連動性についても興味深い知見を得ることに成功していることから概ね順調に進行していると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに大腸癌および肝臓癌細胞に対する増殖抑制活性が認められたスルホンアミド軸不斉を有するベンゾジアゼピノン誘導体において、軸不斉異性体間の活性についても評価し、著しい差が認められることがわかった。さらに、環の大きさや構造の一部を修飾することで活性発現に寄与するコンホメーションを明らかにすることにも成功している。したがって、抗腫瘍活性が認められたベンゾジアゼピノン誘導体について、多種の細胞で検討し、選択性や細胞毒性を調べるとともに、作用機序についても詳細に検討を行う。 続いて、軸不斉の制御については、ベンゾジアゼピノン環に不斉中心を導入することで動的な不斉である軸不斉が誘起されて一方のコンホメーションが優先されることを明らかにしたことから、キラルな化合物を出発物質として基本構造である1,5-ベンゾジアゼピノン骨格の構築を検討する。ベンゾジアゼピノン骨格は、環内のアミド構造の影響で非常に硬直であり、容易に環構造が変化されない。この特性を活かしてあらかじめ一方の中心不斉を持つ骨格を用いることで、軸不斉の立体構造が制御されると考えられる。中心不斉を導入する位置によっては異性化の可能性もあることから、反応条件の検討を行うのと併せて置換基を組み込む位置も検討し環構造の構築を試みる。さらに、これまでにも立体構造の解析において計算化学を利用した配座解析等を実施しており、一方の立体構造が得られるメカニズムなど立体制御が支持される情報をコンピュータ解析からも得ながら、効率的な軸不斉異性体の合成を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
これまでの本研究事業において、スルホンアミド軸不斉が強く影響していることを見出すことに成功したことから、昨年度は様々な誘導体を合成し、軸不斉異性体を単離し、活性評価を行うこととした。しかし、合成については当研究室で既に保有する試薬等で大部分を賄うことができたことから、新規に購入する予定であった試薬の費用を抑えることに繋がった。さらに、軸不斉異性体の分離・単離に必要不可欠であるキラルカラムについても、劣化等から新規で購入する予定であったが、幸いにも既存のカラムで対応できたために当初の予定額に至らず、未使用額が生じることとなった。未使用分の予算については、生物活性評価において大変興味深い結果が得られており、今後合成する予定の誘導体と共に活性試験に充てる予定である。
|