研究課題
26Sプロテアソームは、ユビキチン修飾されたタンパク質を選択的に分解する事で、細胞周期制御やシグナル伝達、免疫応答などの機能調節に関与している。プロテアソーム阻害剤(PIs)は、細胞周期や転写制御に関わる因子の分解阻害と同時に変性タンパク質蓄積による小胞ストレス増加により、最終的にがん細胞をアポトーシスに導く。そのためPIsは新しいクラスの分子標的薬として多発性骨髄腫などの血液がんの治療に利用されている。本研究では、新規なプロテアソーム阻害物質リダイフェンF(RID-F)を見出し構造活性相関を検討し、ペプチドを付加することでさらに選択性や阻害活性および細胞膜透過性を付与した。RID-Fはタモキシフェンの誘導体であり、試験管内のプロテアソームに対して650nMのIC50を示す。その一方で、培養細胞への作用には高濃度の添加が必要であり、多剤耐性株にはほとんど効果が無いといった問題点がみられた。そこで、膜透過性ペプチド付加による多剤耐性骨髄腫細胞株への作用増強効果を検討した。その結果、RID-Fペプチドコンジュゲート化合物は26Sプロテアソームに対する阻害活性が増強し、付加配列により基質選択性も変化した。さらに、細胞膜透過ペプチドであるポリアルギニン配列を付加したRID-Fペプチドコンジュゲート化合物は、顕著に細胞レベルでのプロテアソーム阻害が増強し、多剤耐性株のアポトーシスを誘導した。以上の検討から、RID-Fペプチドコンジュゲートの薬効増強の有効性が示唆された。さらに、無細胞ディスプレイ法によりプロテアソームと相互作用するペプチドを得た。このペプチドがプロテアソームに結合し、機能を阻害することも明らかにした。現在、このペプチドをリダイフェンにコンジュゲートした化合物を用いて機能を検証している。
2: おおむね順調に進展している
低分子のプロテアソーム阻害剤にペプチドを付加することで細胞膜透過性・26Sプロテアソームへの作用が増強することを証明した。さらに多剤耐性を持つ多発性骨髄腫由来の細胞にアポトーシス誘導させることを確認した。さらに、研究計画で挙げた無細胞ディスプレイ法による相互作用ペプチドの取得にも成功した。このペプチド配列の相互作用に重要な領域を確認し、プロテアソームへの相互作用に最低限必要なペプチド配列を明らかにした。これらの進捗は、この新しい配列が薬剤コンジュゲートに利用できる可能性を示しており、当初計画通りの成果である。現在、このペプチドをリダイフェンにコンジュゲートして、薬効の増強効果を検討している。
今後、ペプチドのプロテアソームへの相互作用を明らかにするとともに。リダイフェンとコンジュゲートさせたハイブリッド分子を作成して薬効を検証する。そのための薬効評価系はすでに準備されていある。すでに数化合物の評価が完了している。今後は、評価化合物の数を増やし、構造活性相関を明らかにする。
(理由)追加内定であったため研究期間が短く、次年度に持ち越すこととした。(計画)進捗で述べた通り順調に計画は進んでおり、次年度は計画を加速させるために使用する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
European Journal of Medicinal Chemistry
巻: 146 ページ: 636-650
10.1016/j.ejmech.2018.01.045