研究課題/領域番号 |
16K08334
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研究機関 | 就実大学 |
研究代表者 |
山川 直樹 就実大学, 薬学部, 講師 (20583040)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非ステロイド性抗炎症薬 |
研究実績の概要 |
Transient receptor potential protein(TRP)チャネルは、温度、圧力、化学物質などの侵害刺激に応答するイオンチャネルであり、痛みの受容器として働くことが知られており、新しいタイプの鎮痛薬のターゲット分子として注目されている。一方、アスピリンやインドメタシンに代表される非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は優れた消炎鎮痛薬であり、世界中で最もよく処方されている医薬品の一つである。しかしながら、NSAIDによる鎮痛効果はオピオイド(モルヒネやコデインなどの痛覚伝導経路を直接遮断する物質)よりも弱い。本研究の目的は、TRPチャネルを標的とする新しいタイプの鎮痛薬として有望な候補化合物を創製することである。プロピオン酸系に分類されるNSAIDをリード化合物とする誘導体の合成展開においては、特に芳香環部位を化学修飾することが胃潰瘍副作用の減弱または抗炎症作用の活性上昇に有効であることを過去の研究で明らかにしており、これまでに、抗炎症作用に対して速効性を示す化合物の合成が達成されている。平成28年度は、まずこの化合物の構造最適化を行い、類似骨格を有する周辺化合物の合成を行った。さらに、合成した化合物の中から作用・副作用の面から臨床的に有用性の高い候補化合物を抽出し、それらの鎮痛効果について動物を用いた薬理試験を実施した。具体的には、候補化合物のホルマリン疼痛試験を行った。その結果、一般的なNSAIDsが第一相(非炎症性疼痛)と第二相(炎症性疼痛)の疼痛反応のうち第二相のみを抑制するのに対し、芳香環部位をハロゲン修飾した化合物の一つが両方の疼痛反応を抑制した。このことは、投与した化合物の疼痛抑制がTRPチャネルを介している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、これまでに合成した候補化合物の特に芳香環部分の多様な構造最適化の合成を行い、有望化合物の絞り込みと疼痛抑制効果の実験系を確立する計画であった。候補化合物の構造最適化においては、周辺化合物の合成を含めた検討を行い、抗炎症・鎮痛作用の薬理効果に対するメリットと胃潰瘍副作用に対するデメリットのバランスを考慮した数種類の有望化合物に絞り込むことができた。特に芳香環の化学修飾における薬理活性の変化については、その構造活性相関を解明し学会発表を行った。一方で、動物を用いた疼痛試験の検討においては、ラットを用いたホルマリン疼痛試験の実験系の確立に成功しており、一部の候補化合物では他のNSAIDsには見られない非炎症性疼痛に対する抑制効果が観察された。現在、この詳細なメカニズムの解析を行っている。以上のように、本研究課題の初年度に計画した研究項目におおむね着手することができており、進捗状況は順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
候補化合物の構造最適化に関する有機合成については、今後も精力的に継続して行いたいと考えている。具体的には、現在候補化合物として抽出した有望化合物と同類のプロピオン酸骨格を有する他のNSAIDをリード化合物とする誘導体の合成展開を図る。特に、芳香環部位への化学修飾が薬理活性に大きく依存することから、より安全性の高い有望化合物の同定を目指す。一方で、候補化合物の疼痛抑制効果に関する検討については、ホルマリン試験以外の疼痛抑制試験を行い、候補化合物がTRPチャネルを介することの裏付けとサブタイプの同定方法について模索する予定である。これらの研究を通じて、新しいタイプの鎮痛薬を創製することの可能性と意義を追求していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、新規誘導体の合成検討において、有機合成関連の試薬の一部を安価で入手することができたため、物品費の支出を当初計画の計上額から若干押さえることができた。そのため、この助成金を次年度(平成29年度)に繰り越して使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、当初計画にて計上した通り、物品費、成果発表のための旅費及び投稿・印刷費を昨年度から繰り越した助成金と合わせて使用する予定である。
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