Transient receptor potential protein(TRP)チャネルは、痛みの受容器として働くイオンチャネルとして知られている。本研究は、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の鎮痛効果に着目し、NSAIDsとTRPチャネルとの関連性及びその作用メカニズムを解明し、TRPチャネルを標的とする新しいタイプの鎮痛薬を創製することを目的としている。研究代表者らは、これまでに抗炎症作用に対して速効性を示す数種類の化合物を同定した。また、これらの化合物について、動物を用いたホルマリン疼痛試験を実施したところ、炎症性疼痛の抑制に加えて非炎症性疼痛の抑制にも関与していることが示唆された。本年度は、まず、これらの化合物が実際にTRPチャネルの開口に寄与しているかどうかを確かめるために、パッチクランプ法(イオンチャネルの挙動を調べるための電気生理学的な手法)による解析を行った。具体的には、種々のイオンチャネルの過剰発現細胞に化合物を添加し、Single-channel法またはWhole-cell 法を用いて電気抵抗の変化を観察した。その結果、同定した化合物は特に痛みとの関連性が高いTRPAとTRPVファミリーに属するチャネルに対して活性化または抑制効果を示すことが明らかとなった。このことは、同定した化合物がイオンチャネルを介して非炎症性疼痛を抑制していることが示唆された。次に、抑制効果を示したTRPチャネルに対して、炎症性メディエータとして知られるプロスタグランジンE2共存下で同様の実験を行ったところ、同定した化合物はプロスタグランジンE2依存の透過性の亢進を抑制しなかった。すなわち、同定した化合物は、アラキドン代謝を阻害しない経路で非炎症性疼痛を抑制していることが示唆された。
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