Transient receptor potential protein(TRP)チャネルは、温度や化学物質、物理的な刺激を感受するセンサーとして知られている。TRPチャネルは感覚神経に特異的に発現しており、ヒトではTRPV、TRPC、TRPM、TRPA、TRPP、TRPMLの6つのサブファミリーに分類されている。特に、TRPVやTRPAファミリーに属するチャネルは、炎症などの痛みの信号の伝達に重要な役割を果たしている。本研究では、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の鎮痛効果に着目し、NSAIDsがTRPチャネルへ関与するという新たな仮説を検証することを目的とする。さらに、NSAIDsがTRPチャネルを介した作用メカニズムを解明し、TRPチャネルを標的とする新しいタイプの鎮痛薬の創製について、その可能性を探求する。研究開始の初期の段階において、抗炎症作用に対して速効性を示すNSAIDの誘導体を同定した。そこで、動物を用いたホルマリン疼痛試験を実施したところ、炎症性疼痛と非炎症性疼痛の両方を抑制することを発見した。このことは、同定した化合物が末梢と中枢の両方の作用していることが示唆された。また、TRPAとTRPVを発現させた培養細胞を用いたパッチクランプ法(イオンチャネルの挙動を調べるための電気生理学的な手法)を適用し、同定した化合物のチャネルの活性化への関与を認めた。 一方で、同定した化合物をリード化合物とする誘導体合成を行い、イオンチャネル依存の鎮痛作用を示す化合物の探索を行ったところ、いくつかの誘導体がリード化合物と類似の挙動を示すことが明らかとなった。さらに、これらの構造活性相関の解析から、イオンチャネルの活性化には芳香環に結合した官能基の種類と位置に依存することが示唆された。
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