研究課題/領域番号 |
16K08337
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
藤島 利江 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (90286980)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ステロイド / ビタミン / ホルモン / 化学合成 / 複素環 / 核内受容体 |
研究実績の概要 |
セコステロイドであるビタミンDは,酵素群により厳密に活性化制御を受け,様々な生理作用を持つ小分子として機能する.主要な標的は核内ビタミンD受容体であり,その分子認識において骨格上の3つのヒドロキシ基との水素結合が重要とされる.しかしながら,これらヒドロキシ基に対し,有効な官能基変換に成功した例はない.そこで,ヒドロキシ基の代替として機能しうる小員環エーテル構造を導入した誘導体を合成し,小員環エーテル構造を新たな酸素官能基として活用する手法を開発すると共に,受容体および酵素群に対する分子認識機構を変化させることで,作用分離を実現する分子創製を目指した. ヒドロキシ基に替わる新たな酸素官能基として,小員環エーテルのうち,まずは対称的な四員環オキセタンを選び,その合成法の確立に着手した.ビタミンD活性発現に重要な水素結合を担うヒドロキシ基の代替として,四員環オキセタンをセコステロイド骨格A環部のそれぞれ 1位または3位に導入したアナログを設計した.これら新規ビタミンD誘導体の合成には,A環部前駆体と別途合成したCD環部をパラジウム触媒存在下にカップリングする収束的方法を用いた.ここで,1位または3位に相当する位置にオキセタン環を有する鎖状エンイン体の合成法確立が課題となった.結果,汎用性のある合成法を確立するため,具体的にはoxetan-3-oneより四工程で得られるジオール誘導体から合成できる共通中間体に,Grignard 試薬等の有機金属試薬と反応させることとした.結果,この方法により,様々な位置(1,2,3位)に環状エーテル構造を持つA環部前駆体の合成が可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な位置(1,2,3位)に環状エーテル構造を持つA環部前駆体合成法をほぼ確立し,1位または3位のみでなく,2位にスピロオキセタン構造を有する新規誘導体の合成が完了している.このように,対称なスピロ環状エーテルを導入するこの分子設計では,もとの1位または3位ヒドロキシ基の立体化学に関する問題を減じることになり,合成上も有利といえる. 前述の反応では,環状エーテルで置換していない,第2級アルコールの立体化学の決定が重要となる.そこで,セコステロイド骨格の特徴を活かした励起子キラリティー法にて構造決定を試みた.結果,1位ヒドロキシ基の立体化学の決定には,C(10)19位エキソメチレン部を利用したアリルアルコール構造が利用できることを確認した.さらに,3位ヒドロキシ基に関しても,セコステロイドのトリエン部クロモフォアを活かし,励起子キラリティー法が適用可能であることを見いだした.励起子キラリティー法を適用するにあたり,A環部の配座解析が重要となった.まずは,NMR解析にて様々な溶媒中の配座を確認し,次いで,結晶化に成功したものはX線結晶解析を行った.スピロオキセタン部の酸素原子の立ち上がりは小さく,四員環エーテルはこの場合,ほぼ平面に近似できることが明らかとなってきている. 以上,重要な知見を得つつあり,研究は概ね順調に進行していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
前年度の結果を踏まえて合成を進める.セコステロイド骨格に特徴的なトリエン部分の構築は,収束的方法を用いてきた.この方法の利点のひとつは,これまでに応募者および他のグループによっても示されているが,A環部とCD環部の同時修飾が容易であることである.ビタミンD受容体リガンドにおけるA環部機能と側鎖部機能は,それらの組合せにより,相加的にも相乗的にもはたらくことが判明している.側鎖部炭素数の変化により得られた知見は, 同時修飾ハイブリッドアナログへの展開を行う. 合成完了した誘導体の活性評価として,まずは当大学でVDR結合能試験,転写活性化能等を検討する.ビタミンD誘導体はごく低濃度で活性を発現することから,その精製は非常に重要である.これまでもセコステロイド誘導体の分離精製に威力を発揮してきたリサイクル高速液体カラムクロマトグラフィー法を使用する予定である.従来のODS逆相カラムを用いる方法に加え,オクタドデシル基の代替としてコレステリル基を有するカラムが予試験で良い結果を与えており,分取カラム導入を考える. さらに,この「非天然型」官能基として,まずは対称な環状エーテルから検討を始めたが,前年度までに確立したA環部合成法を用いて出発原料のみ変えることで,小員環エーテルの炭素数を変化させ,酸素原子の位置を変化させた誘導体合成を行う予定である.新規エーテル環状官能基の炭素数,置換位置および立体化学に関する情報を総合し,第二世代の設計に活かす.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究を進めるにあたり,試薬・溶媒等購入費が予測より低かったこと,ならびに英文校正料等がかかっていない点が原因と考えている.
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由により,さらに誘導体合成を進めるため今回の次年度使用額を試薬・溶媒等購入費にあてると共に,複数の論文投稿にあたって英文校正料に使用する予定である.
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