研究課題/領域番号 |
16K08338
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
橋爪 秀樹 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 主任研究員 (10311276)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | tripropeptin C / beta-lactam / MRSA / in vivo efficacy / reverse resistance / mode of action |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、βラクタム剤のMRSAに対する抗菌力を復活させ、相乗的に強い抗菌力を示すtripropeptin C (TPPC)の作用機序を明らかにすることである。興味深いことにTPPCとβラクタム併用での相乗的抗菌活性は耐性菌MRSAでは認められるが感受性菌MSSAでは相乗性は認められなかった。MRSA は感受性菌 MSSA が外来の遺伝子であるベータラクタム分解酵素(BlaZ)及びベータラクタムに定親和性の細胞壁重合酵素である mecA (Pbp2A) を獲得した結果、ベータラクタムに高度耐性を獲得した。 そこでまずは TPPC が臨床分離 MRSA のBlaZ分解活性を阻害するか検討を行ったが、TPPCはこれを阻害しなかった。一方で、MRSA はベータラクタムを検知してベータラクタマーゼを発現誘導することが知られているが、TPPC をMRSA に処理するとベータラクタムによる誘導の有無にかかわらずBlaZの発現誘導を阻害した。前述した2種の外来耐性遺伝子 BlaZ, Pbp2A は構造類似性の非常に高い感知器、シグナル伝達酵素によって相互に制御され、一方の経路が活性化されることで双方の耐性遺伝子発現が誘導される。そこでblaZ, pbp2A シグナル伝達経路及びその他の薬剤耐性に関わる因子の発現量を検討したところ、TPPC はベータラクタムによる耐性遺伝子発現を選択的に非誘導時レベルにまで低下させることを見いだし、耐性遺伝子の発現抑制がβラクタム剤のMRSAに対する抗菌力を復活させた要因であることを明らかにした。
さらに我々の動物施設の協力を得て、MRSA 全身感染マウスモデルを構築し、感染治療試験を行ったところ、単剤で治療効果を示さない投与量の併用で非常に高い治療効果を示した。
以上の機序解析ならびに動物実験における併用治療効果に関して論文発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請段階で計画していた内容についてほぼ予定通りに進んでいると考えている。 すなわち、今年度は、昨年度構築したマウスのMRSA 全身感染治療モデル系を利用してTPPC とベータラクタムの in vivo における併用効果について検討できた。これに加えて、TPPC がベータラクタム剤のMRSAに対する抗菌力を復活させる機序についても知見を得、論文することができた。
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今後の研究の推進方策 |
TPPC がベータラクタム剤のMRSAに対する抗菌力を復活させる機序について、ベータラクタムの耐性遺伝子の選択的な発現抑制が要因であることを見いだしたが、標的分子やそこに至る経路については未解明のままである。未検討の関連遺伝子の発現パターンの解析や遺伝学を駆使してこれらを明らかにしたい。
また、各種半合成 TPPC 誘導体を用いてβラクタムとの併用効果を検討しているが、本年度はさらに対象化合物を増やし、相乗効果に必要な構造特定につながるようさらに実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)マウスの感染モデル構築が予想よりも順調に進んだことに加え、学会発表を行わなかったため、その分の費用を次年度繰越とした。
(使用計画)追加の遺伝子発現解析ならびに産物タンパク質の解析等、費用のかかる実験に使用予定。 また、昨年度の検討から得られた成果をまとめて学会発表や論文投稿する際に使用する。
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備考 |
微生物化学研究所 HP; http://www.bikaken.or.jp/index.php
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