研究課題/領域番号 |
16K08341
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
深澤 秀輔 国立感染症研究所, 真菌部, 室長 (10218878)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | チロシンキナーゼ / BY-kinase |
研究実績の概要 |
黄色ブドウ球菌チロシンキナーゼ阻害剤スクリーニングは順調に進捗した。当初触媒サブユニットCapB2の全長と調節サブユニットCapAの活性化部位のキメラに蛍光タンパクを付加し、HEK293T細胞に発現させてキナーゼ活性を検出していた。昨年CapA、CapBをそれぞれ全長で、別々の蛍光タンパクを付加して発現させ、CapB2の細胞内局在変化を観察することにより、CapAとCapB2の相互作用が解析可能になった。 引き続き種々CapB2変異体を作製しCapAと相互作用する領域を調べ、CapB2キナーゼ活性化にCapAとの結合が必須であることを明らかにした。またCapA全長ではなくC末の活性化部位のみを膜移行シグナルを付けた蛍光タンパクと融合し、別の蛍光タンパクを付加したCapB2と共発現させた。CapA全長と比較して活性化部位のみではHEK293T細胞での発現量が大幅に増加し、同時にCapB2のリン酸化が著しく上昇した。この時CapB2だけでなく蛍光タンパク付加したCapA活性化部位もリン酸化された。CapA部分にチロシンが存在しなくてもリン酸化は検出されることから、タグの蛍光タンパクがリン酸化されていると推測された。CapB2部分のリン酸化も「自己リン酸化」ではなく、付加した蛍光タンパクが基質となっていると思われる。CapB2はチロシン残基周囲の配列に依存しない基質特異性の低いチロシンキナーゼであると考えられる。 また黄色ブドウ球菌だけでなく枯草菌と肺炎球菌のBY-kinaseの細胞での発現にも成功した。触媒サブユニットと調節サブユニットを交換しても、多くの場合両サブユニットの相互作用とチロシンリン酸化が観察され、BY-kinase活性化機構はグラム陽性菌間である程度共通していることが示唆された。さらにグラム陰性菌である大腸菌のBY-kinaseの活性発現にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スクリーニングは強力な阻害物質は得られなかったものの、順調に進捗した。CapA全長ではなく、C末の細胞質領域の活性化部位に膜移行シグナルを付加し、CapB2と共発現させたところ、CapB2のキナーゼ活性が著しく昂進した。これをアッセイ系に適用することにより、スクリーニングの信頼性が向上した。またCapAとCapB相互作用の解析もより容易になり、結合に関与する残基や領域について多くの新知見が得られた。肺炎球菌のBY-kinaseをクローニングし、触媒サブユニットと調節サブユニットの全長同士を共発現させると、相互作用はしたものの、チロシンリン酸化は起らなかった。しかし調節サブユニットをC末の活性化部位のみにすることにより、リン酸化が検出された。枯草菌の二組のBY-kinaseについても同様の方法を用いてキナーゼ活性を確認した。活性化部位だけにすると全長より小さくなるため、HEK293T細胞内での発現レベルが高くなることに加え、タグに四量体を形成する蛍光タンパクを用いたことがキナーゼ活性上昇に寄与したと考えている。またCapB2と類縁のCapB1はキナーゼとしては不活性であると報告されてきたが、条件によってはキナーゼ活性を示すという予想外の結果も得られた。リン酸化部位については、様々な状況証拠から蛍光タンパクタグ部分である可能性が高い。グラム陰性菌である大腸菌のBY-kinase2種類の活性発現にも成功し、計7種類のBY-kinaseの活性が検出可能となった。研究の本来の目的である強力なBY-kinase阻害物質が見いだされていないことは残念であるが、それ以外の部分では予想以上の成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き黄色ブドウ球菌チロシンキナーゼ阻害物質のスクリーニングを行う。複数のBY-kinaseの活性が検出可能となったので、それらの活性化について、共通する機構、個々のキナーゼに特有の機構、グラム陽性菌とグラム陰性菌の相違点等を調べる。BY-kinaseファミリーとは相同性のない結核菌等のチロシンキナーゼをクローニングし、HEK293T細胞での活性発現の検討を行う。本研究で開発した手法はBY-kinaseサブユニット間だけでなく、他のタンパク質間相互作用の解析にも適用できると考えられ、より広い応用を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)年度末納品等にかかる支払いが平成30年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成29年度分についてはほぼ使用済みである。 (使用計画)上記のとおり。
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