研究課題/領域番号 |
16K08342
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
東 伸昭 星薬科大学, 薬学部, 教授 (40302616)
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研究分担者 |
安達 勇光 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所 沼津支所, 主席研究員 (00250051)
山本 典生 順天堂大学, 医学部, 准教授 (40323703)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 微生物・感染症学 / インフルエンザウイルス / 上皮細胞 / ヘパラナーゼ / 組織修復 / プロテオグリカン / マスト細胞 / 炎症 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は「ウイルス感染機構と、その後に生じる上皮組織の障害機構を解明し、これを阻害する薬理学的手法を見出す」ことである。 ウイルス感染機構についての独自の視点として、ヘパラン硫酸がインフルエンザウイルスの感染過程を何らかの形で調節することを予備的に見出していたが、詳細は不明であった。そこで、ヘパラン硫酸のコアタンパク質であるシンデカン-1、-2についてcrispr-Cas9による遺伝子ノックアウト細胞を得るためのベクターを構築し、平成30年度はベクターを導入した細胞集団からクローンを確立し、ここから両アレルに変異をもちシンデカン-1遺伝子の発現を欠くノックアウト細胞を選別した。この細胞の表面におけるシンデカン-1タンパク質の発現は確かに消失していたが、意外なことに、ヘパラン硫酸の発現はむしろ上昇しており、これに伴ってインフルエンザウイルスの感染効率も上昇した。 一方、ウイルス感染に伴う上皮細胞死の検討に際して、感染時に上皮細胞内で発現上昇することが知られているヘパラナーゼ遺伝子に着目した。上皮細胞株をヘパラナーゼ阻害物質で処理したところ、増殖抑制ならびに低血清時における細胞死を誘導することを新たに見出した。この事実は、ヘパラナーゼの発現が細胞の生存や組織修復に関わる可能性を示唆する。生体内で外因的なヘパラナーゼを保持する細胞としてマスト細胞が挙げられる。マスト細胞は前駆体タンパク質を優先して取り込むが、取り込まれにくい成熟体が共存する条件で、取り込み受容体となるヘパラン硫酸の発現が低下することを見出した。また、この取り込みはヘパラナーゼ阻害物質で抑制された。取り込みに関わるヘパラン硫酸がシンデカン-4によって提示されることを、遺伝子ノックダウンの実験で示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成30年度には当初の目標どおり、特定のシンデカン遺伝子を欠く細胞の取得に成功した。しかしこのシンデカン分子は細胞表面におけるヘパラン硫酸の発現に関与するコアタンパク質ではなかったと考えられ、「ヘパラン硫酸」と感染の関係についての実験的検証ができなかった。この点はさらに検討を要する。また、個体レベルでヘパラン硫酸とヘパラナーゼが感染に関与するか否かについて、ヘパラナーゼ阻害物質を投与したマウスに対する感染実験による検証を計画していた。しかしながら、この実験を担当する予定であった研究分担者・山本博士の研究室(順天堂大)が老朽化に伴う移転を余儀なくされた。このため、感染実験の実施が4ヶ月近くにわたって困難な状態となり、研究の進行が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
前半の「ウイルスの上皮細胞感染におけるヘパラン硫酸の関与」については、引き続きシンデカン遺伝子のノックアウト細胞もしくは発現抑制細胞を作製することにより、硫酸化糖鎖を提示するコアタンパク質としてどの分子が重要であるのか、あるいは硫酸化糖鎖自体の発現があれば十分であるのか、という点を明確にする。ヘパラン硫酸の関与について、感染におけるウイルス吸着・複製・出芽などの過程のうち、どの過程の調節にヘパラン硫酸が関与するのかについても検討する。本研究課題が開始された後、平成28年になって、細胞側が易感染状態に移行するためのスイッチとしてヘパラナーゼの発現上昇を位置付けた論文が報告された。この視点から感染成立におけるヘパラン硫酸の切断の意義についてインフルエンザウイルスを題材に考察を深める。 後半の「組織修復におけるヘパラナーゼの関与」について、個体レベルにおけるヘパラナーゼの関与を阻害物質を投与する系で検討する。ヘパラナーゼ阻害物質の合成は既に研究分担者・安達博士によって完了している。ヘパラナーゼ発現を欠損するノックアウト細胞、ヘパラナーゼ阻害物質を用いて、組織修復時の細胞増殖をヘパラナーゼが制御する機構を細胞周期制御とオートファジーの立場から解明する。マスト細胞へのヘパラナーゼ取り込みについて、「活性を持たないヘパラナーゼ変異体」を調製済みであり、この変異体タンパク質の取り込み過程の検討を介して、硫酸化糖鎖の切断が取り込みのオンオフを制御する可能性を検証する。併せて、近年見出したヘパラナーゼの内在性阻害物質が感染の場において発現するのか、研究代表者を中心に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)ノックアウト細胞のクローン取得に思いのほか時間を要したこと、得られたクローンの性質が当初予想していたものと異なりヘパラン硫酸の発現が消失しなかったことから、細胞レベルの感染実験について進行が遅れた。感染実験を主に担当する研究分担者・山本博士の研究室が、大学の方針で移転を余儀なくされ、動物を含む感染実験の実施ができなかった。 (使用計画)研究分担者・山本博士の研究室移転は、平成30年度内におおよそ終了したので、細胞レベル、動物レベルにおける感染実験の実施を残された期間で進める。またヘパラン硫酸の発現を欠く細胞の取得が完了していないので、siRNAを用いたノックダウン法も組み合わせて発現欠損株を取得し、研究を遂行する。細胞を調製する培地・抗生物質類、siRNAなど遺伝子関連試薬、感染実験のための培養器具、実験動物などの購入に繰り越された研究費を充当する予定である。
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