【目的】世界で7億人の感音性難聴を誘発する環境因子として騒音が知られているが、食品・飲料水等に含まれる重金属摂取と聴力の関連について、難聴を誘発する曝露量の閾値、発症機序は殆ど分かっていない。我々が実施した実験研究では、Mnをマウスに飲水曝露すると、内耳にMnが蓄積し、内耳コルチ器のラセン神経節の変性とc-Retの発現低下を伴い感音性難聴が誘発される事が示唆されている。一方、ヒトでは内耳に含まれるMnレベルを測定するのは現実的に難しく、純音聴力検査で測定した聴力と内耳に蓄積するMnの関連は調べられていない。本研究は、ヒトの生体中のMnレベルの指標として、ツメなどの非侵襲的生体サンプル中に含まれるMnレベルと聴力の関連を解析した。 【方法】145名の健常者に対して、年齢、性別や喫煙歴などのアンケート調査、純音聴力検査による聴力測定を行った。あわせて、各被検者から非侵襲的生体サンプルとしてツメを採取し、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いてツメのMnレベルを測定した。過去の論文のカットオフ値で設定した聴力異常の有無を従属変数、Mnレベルを独立変数としてロジスティック回帰分析を行い、年齢、性別、BMI、喫煙歴等を交絡因子として調整オッズ比を算出した。 【結果】単変量解析により、ツメのMnの高値群は、低値群と比較して、8、12 kHzの聴力が低下傾向を示した。多変量解析においても、ツメのMnの高値群は、低値群と比較して、8 kHzと12 kHzの高音域の聴力異常と有意に相関する事が分かった。一方、毛髪や尿に含まれるMnレベルと聴力異常のあいだに有意な相関は認められなかった。 【まとめ】本研究より、ヒトのツメに蓄積するMnレベルと高音域の聴力異常の関連が示唆された。
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