研究課題
Staphylococcal superantigen-like(SSL)は黄色ブドウ球菌の産生する,スーパー抗原と類似の立体構造を示しながらスーパー抗原活性を示さない分泌タンパク質である.前年度,私たちは血液凝固因子に結合し,抗凝固作用を示す,SSL10の血液凝固因子相互作用に関わる最小機能領域の特定を行った.本年度はがんの悪性挙動や白血球の体内交通に関わるマトリクスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)に結合し,酵素活性を阻害するSSL5の最小機能領域の同定を行った.SSL5はC末端にシアリルラクトサミン糖鎖結合に関わる領域をもち,これを介してMMP-9に結合するが,シアリダーゼ処理MMP-9とSSL5の結合,糖鎖結合部位に変異を導入したSSL5とMMP-9との結合より,この糖鎖依存的結合はSSL5による酵素活性阻害にはかかわっていないことを示した.そこで大腸菌より作成した単純タンパク質である組換えMMP-9の職場いドメインと,各種SSL5のドメインスワップ体,欠失変異体の結合,プロテアーゼ活性に対する影響をを評価することで,SSL5の最小機能領域の絞り込みを行った.その結果,SSL5には2か所のMMP-9結合領域が存在することを見出し,そのうちN末端側半分に存在する約30アミノ酸がSSL5によるMMP-9のプロテアーゼ活性の阻害にもかかわっていることを示した.SSL5は内因性のMMP-9阻害タンパク質と類似性を示さず,今回同定した領域もSSL5に固有の配列であった.今回同定したSSL5のアミノ酸配列は新規プロテアーゼ阻害薬の開発などに寄与すると考えている.
2: おおむね順調に進展している
本研究計画は既知のSSL-標的分子相互作用の機能解析(最小機能領域の同定)と新たなSSLの宿主側標的分子の同定からなる.前者についてはこれまでに2つのSSL-標的分子について最小機能領域を特定し,学会,論文発表を行った.また後者については未発表ではあるが複数のSSLの生理機能を見出している.従っておおむね当初の予定通り進行しているといえる.
現在見出している新たなSSLの生理機能について生化学的,遺伝学的解析を進める.またこれまでに見出したSSLの最小機能領域の創薬への応用を試みる.
他の研究助成金など,研究期間内に使用するべき研究資金を優先して使用したため,次年度は動物を使用した実験等を計画しており,次年度使用額はこれに充てる予定である.
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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