東京都、沖縄県、神戸市などで分離された結核菌の一部は、同一なVNTRやIS6110 RFLPパターンを持つことからM株と命名されている。分離した結核菌株の型別解析が行われている地域では、M株は大きなクラスターを形成し、動物実験で病原性が高いと報告されている北京型(modern)株である。そのため、このM株は、ヒトに対して感染性が高いことや病原性が高いことなどが推定されることから解析を行った。NGSを用いた全ゲノム解析により、挿入・欠損・一塩基多型(SNP)などが検出された。その中で、酵素活性やタンパク質の性質に大きな影響があると推定される非同義置換SNPを持つ遺伝子に注目し、これら遺伝子の過剰発現変異株を作製し、野生型の遺伝子を対照に形質転換効率について比較を行った。M株は、45遺伝子が非同義置換SNPを持っていた。それらの内、10遺伝子(fadD25、fadB3、fadE17、ftsQ、hsaD、kdtB、leuB、pheS、Rv1200)について、Mycobacterium smegmatisとMycobacterium bovis BCGに遺伝子発現ベクターを導入し、形成したコロニー数と増殖速度を比較した。その結果、① 変異型遺伝子を発現させた株が、野生型遺伝子発現株よりコロニー形成数が多いfadD25、fadB3、②野生型遺伝子を発現させた株が、変異型発現株よりコロニー数が多いkdtB、pheS、Rv0373c、Rv1200、③遺伝子発現がコロニー数形成に関連しないfadE17、ftsQ、hsaD、leuB、の3グループに分類することができた。また、これらの結果は、迅速発育菌であるM. smegmatisと遅発育菌であるM. bovis BCGで同様な傾向であった。
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