研究課題/領域番号 |
16K08348
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研究機関 | 帝京平成大学 |
研究代表者 |
小川 裕子 帝京平成大学, 薬学部, 准教授 (30267330)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | exosome / 粘膜免疫 / マクロファージ / 唾液 / LPS |
研究実績の概要 |
ヒト唾液由来粘膜免疫エキソソーム(Exo)のマクロファージ(Mφ)への作用に関与しうる分子の存在状態を検討した。Exo表面のタンパク質としてジペプチジルペプチダーゼIV(DPP IV)、IgA、mucin 5Bについて免疫沈降を行った。抗DPP IV抗体では、沈降画分から強いDPP IV活性およびExoマーカータンパク質(Alix)を検出したが、抗IgA抗体および抗mucin 5B抗体では沈降画分からExo由来成分は検出されなかった。従って、DPP IVはExo表面に強固に結合し、IgAおよびmucin 5BはExoとの相互作用が弱いと考えられた。Exoには口腔内細菌由来のリポ多糖(LPS)が豊富に含まれるので、LPSが結合するポリミキシンB(PMB)レジンを用いて結合状態の検討を行った。PMBレジン処理後の非結合画分からはExoタンパク質およびDPP IV活性が検出され、膜小胞が観察された。LPSは完全に除去されず20%程度残存していた。一方、結合画分からはウェスタンブロットにより微量のIgAおよびDPP IVが検出された。これらのことからExo画分のLPSの大部分はExoと緩く相互作用し、一部は強く結合していること、LPSにはIgAが結合していることが考えられた。 ExoによるマウスMφ細胞株RAW264.7細胞からの一酸化窒素(NO)産生能について、LPS濃度を合わせて検討した。ExoによるNO産生は全唾液およびLPS標準品より抑制された。一方、PMB-ExoのNO産生も全唾液より抑制されていたが、LPS標準品と同等だった。口腔内において細菌感染などの炎症時に増加するインターフェロン-γ(IFN-γ)添加によってNO産生量は増加したが、NO産生の強さの順は変わらなかった。以上よりExoは平常時には過剰なNO産生が起こらないように制御していることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は粘膜免疫エキソソームのMφの活性化機構に関わる因子群の同定、腸管粘膜透過機構の解析を行う予定としていた。前者に関しては、当初の予想に反して、ExoによるMφのNO産生作用は同濃度のLPSを含む全唾液やLPS標準品よりも抑制されていることが判明した。しかしながら、口腔内のLPSが濃度通りにNO産生に関与しているならば、口腔内は常に炎症状態に陥ってしまうことが考えられる。また、個人差があるものの、Exoには口腔内のLPSの平均2割が何らかの相互作用をしていることから、Exoは平常時には過剰な免疫反応の活性化を制御しているという新しい可能性が考えられた。さらに、ExoをPMBレジン処理すると、大部分はレジン非結合画分に存在しているが、LPSは除去しきれなかった。また、除去されたLPSと共にIgAおよびDPP IVの一部もレジン結合画分から検出されたこと、PMB-Exoは同濃度のLPS標準品と同等のNO産生作用を示したことから、Exo表面にはIgAなどのタンパク質およびLPSが緩い相互作用で吸着し、MφのNO産生を抑制するモデルが考えられた。よって、Exo表面の分子を精査することにより、Mφに対する作用の全貌が解明できると考えられる。一方、腸管粘膜透過機構については、透過能に重要な表面分子の精査中であるため、本年度に行うことができなかった。しかしながら、エキソソームマーカータンパク質について、マウスあるいはヒトの種特異的な抗体での検出を試みている。よって、本法と蛍光標識を組み合わせてExoを検出することで、腸管粘膜透過機構およびマウスの in vivoでの動態解析が可能になると考えられ、同時に進行することで、今後の研究は予定通りに進行可能と考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初はExoによるT細胞やB細胞の活性化機構を解析する予定であったが、本年度の解析でExoのMφへの作用はNO産生に関して抑制的な制御であると考えられた。そこで、NO産生制御に関与する因子の同定、特にLPSを抑制する因子の同定を行う。既にIgAやmucin 5B等の候補タンパク質があり、これらはゲルろ過クロマトグラフィー(GFC)ではExo画分と同時に溶出するが、Exoは抗IgA抗体や抗mucin 5B抗体での免疫沈降で沈降しないことから、これらの分子との相互作用は強くないと考えられる。PMB-ExoはLPSおよび一部のIgAが失われ、同濃度のLPS標準品と同等のNO産生能を有していた。そこで、PMB-ExoにIgAおよびLPSを添加して、両者の相互作用が再現できるかをGFC等で検討する。相互作用しているならMφに添加して、NO産生抑制作用の再現を確認する。また、Exoには口腔内LPSの20%程度が結合しているが、IgAとLPSの結合量およびExoに相互作用するIgA量をELISA等で測定し、Exoと相互作用するIgA-LPS量を推測する。Mφにおけるこれらの単独および複合体の状態でのNO産生能を比較することで、これら因子の相互作用による関与を精査する。この際、MφからのNO産生に関わるIFN-γ等のサイトカインの産生量もELISA等で検討し、炎症時のサイトカインの上昇がExoによるNO産生に関与するかも検討する。さらに、これまでに消化酵素処理によりmucin 5B等の表面分子が分解除去されたExoが得られることを確認している。そこで、消化酵素処理Exoを未処理Exoと共にプロテオーム解析することで、表面に存在する微量のタンパク質を同定し、Mφへの作用を検討する。同時にExoの蛍光標識による体内動態の検討も進める。
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