研究課題/領域番号 |
16K08349
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
津川 仁 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (30468483)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 胃がん / 病原細菌 / 細菌感染症 / オートファジー / がん幹細胞 / がんタンパク質 / CagA / VacA |
研究実績の概要 |
CD44v9陽性細胞は、H. pylori感染を受けるとCagAを蓄積させ、腫瘍の増悪化をもたら胃発がんに関与する重要な宿主細胞である。本年度、研究代表者らは、ピロリ菌がんタンパク質CagAが、F-actin-capping protein subunit alpha-1(CAPZA1)過剰発現細胞に特異的に蓄積することを明示した。この機序は、CAPZA1過剰発現細胞では、LAMP1発現が抑制され、autophagyが抑制されることによるものであった。現在、ここまでの研究成果について、論文を投稿中である。さらに、CAPZA1過剰発現細胞では、CD44v9のスプライシングバリアントの構築に寄与するepithelial splicing regulatory protein 1 (ESRP1)の発現が誘導されることも明らかとされた。また、CAPZA1過剰発現細胞へのピロリ菌感染では、CD44の転写因子として機能するβ-cateninの核内への移行が強く増強されることも見出し、CAPZA1過剰発現細胞は、ピロリ菌感染を受ける事で、CD4v9陽性がん幹細胞の前駆細胞として機能する可能性が示唆されている。興味深い事に、CAPZA1発現は、ピロリ菌感染胃粘膜において、酸化ストレス依存的に惹起される事も明らかとなり、ピロリ菌感染胃粘膜での胃発がん過程において、がん幹細胞の発生過程が明かになり始めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CAPZA1過剰発現細胞は、H. pylori感染により、特異的にH. pyloriの産生するがんタンパク質CagAを蓄積させることが明らかとなった。これは、CAPZA1過剰発現細胞では、LAMP1発現が抑制され、autophagyが抑制されることによるものである(論文投稿中)。さらに、CAPZA1過剰発現細胞では、CD44v9のスプライシングバリアントの構築に寄与するepithelial splicing regulatory protein 1 (ESRP1)の発現が誘導されることが明らかとなり、同時に、CAPZA1過剰発現細胞へのH. pylori感染は、CD44の転写因子であるβ-cateninの核内移行も増強される結果、CAPZA1過剰発現細胞が、H. pylori感染を受ける事で、CD44v9陽性細胞へ変化することを明らかとした(論文投稿準備中)。さらに、CAPZA1過剰発現細胞は、H. pylori感染胃粘膜で検出され、CAPZA1発現はH. pylori感染に伴う酸化ストレス刺激により誘導されることも明らかとなってきた。さらに、CAPZA1発現制御メカニズムの解析から、CAPZA1発現は、ヒストンアセチル化による制御を受ける事が、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を用いた検討並びに、ChIP assayの両面から明らかになった。これらの解析結果から、ピロリ菌感染胃粘膜における胃発がん過程での、CD44v9陽性がん幹細胞の発生過程並びにその前駆細胞となり得る細胞特性について新しい知見が明らかになり始めている。以上のことから、胃発がんリスクを規定する宿主細胞キャラクターの同定に向けて順調に計画が進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果により、CAPZA1過剰発現細胞は、autophagy発現不全細胞である事から、H. pyloriのがんタンパク質CagAを特異的に蓄積させること、さらに、ESRP1の過剰発現を誘導し、H. pylori感染を受ける事でβ-catenin シグナルを異常に活性化させることが明らかになった。その結果、CAPZA1過剰発現細胞は、H. pyloriとの遭遇により、CD44v9陽性細胞へと変化することが明らかにされている。これらの成果から、H. pylori感染胃粘膜におけるCAPZA1過剰発現細胞の存在は、CD44v9陽性がん幹細胞の前駆細胞として振舞うことが示唆されたため、今後、in vivo解析から胃粘膜上皮におけるCAPZA1過剰発現細胞の発生過程における解析を詳細に展開する予定である。既に、研究代表者は、H. pylori感染胃粘膜で惹起される酸化ストレス傷害がCAPZA1発現の誘導に関わる因子である可能性を指摘しており、今後、CAPZA1発現制御機序を、酸化ストレス応答性転写因子ならびにエピジェネティクス制御に注目して解析し、CAPZA1発現亢進に関わる要因を同定する。これにより、CD44v9陽性がん幹細胞の前駆細胞となり得るCapZA1過剰発現細胞の発生機構を明らかにする事で、本研究課題の目標である、胃発がんリスクを規定する宿主細胞キャラクターの同定並びにその機能解明を成し遂げる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が当初の予定よりもはやく進捗し、研究成果を英文論文としてまとめ、出版社への投稿並びに査読者とのやり取り期間が含まれたことで、次年度使用額が発生したが、今年度において、当初計画どおりにさらに研究を展開させる上で、計画どおり使用する予定である。
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