研究課題/領域番号 |
16K08353
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
関本 征史 麻布大学, 生命・環境科学部, 准教授 (10381732)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 接触性皮膚炎 / 代謝活性化 / P450 / HaCaT / Nrf2 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、ヒト単球THP-1細胞およびヒト皮膚ケラチノサイトHaCaT細胞を用いて、代表的な免疫毒性物質による皮膚アレルギー誘発における異物代謝酵素の役割を解析することを目指した。 本年度はまず、免疫毒性に関連する転写因子の活性化を指標とした実験系の構築を試みた。芳香族炭化水素受容体(AhR)、AP-1、NF-kBおよびNF-E2-related factor 2(Nrf2)の活性化をモニタリングできるルシフェラーゼレポータープラスミドをTHP-1細胞およびHaCaT細胞に導入し、抗生物質によるセレクションを行ったところ、HaCaT細胞においてのみ、レポータープラスミドが安定に発現した細胞群を得ることができた。 そこで、これらレポーター細胞を用いて、免疫毒性物質による転写因子の活性化について検討した。その結果、直接型(代謝活性化を必要としない)免疫毒性物質である2,4-ジニトロクロロベンゼン(DNCB)では6時間と短時間で、また、間接型(代謝活性化を必要とする)免疫毒性物質であるベンゾ[a]ピレン(BaP)では12~24時間と長時間で、Nrf2の活性化が観察された。また、非選択型P450酵素の阻害剤であるSKF-525A共存下で、BaPによるNrf2活性化が顕著に抑制されたことから、HaCaT細胞内のP450酵素により活性化されることで免疫毒性を発現することが示唆された。 HaCaT細胞を用いた化学物質の皮膚免疫毒性評価システムの構築において、HaCaT細胞や皮膚におけるP450酵素などの異物代謝活性化酵素の発現プロファイルの解析は重要である。そこで、HaCaT細胞に免疫毒性物質を処理し、異物代謝活性化酵素の遺伝子発現変動について解析するとともに、HAB研究機構よりヒト皮膚組織を入手し、皮膚局所におけるこれら酵素の発現についても解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度までに計画していた、「既存免疫毒性化学物質曝露による異物代謝酵素誘導と免疫細胞活性化の関連性解析」については、主に活性化を解析する細胞をHaCaT細胞に変更したこと、そのHaCaT細胞の入手(MTAの締結、細胞の輸入)に時間が掛かったこと、また、実験に必要な研究室に設置の設備(クリーンベンチ、ルミノメーター)に軽微な故障が生じたこと、などによって遅れが生じている。しかし、解析に必要なレポーター細胞細胞株の樹立にも成功しており、現在遅れを取り戻すべく検討を進めている。また、この結果をもとに、「代謝活性化酵素高発現細胞の樹立と解析」を行っていく予定である。なお、「ヒト末梢血リンパ球を用いた検討」については、中心に解析する細胞をHaCaT細胞に変更したことから、実験計画そのものの見直しを進めている。 また、「異物代謝酵素の外部添加による影響の解析」については、ラット肝S9だけでなく、ヒト皮膚S9の利用も視野に入れて検討を進めている。ヒト組織S9の入手については、倫理審査委員会での承認に時間を要したために、若干の遅れが生じる要因となった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、前年度までに作成した免疫毒性解析用レポーター細胞(HaCaTレポーター細胞)を用いた解析を進める。すでに一部の前駆型免疫毒性化学物質については、非特異的なP450阻害剤の影響を確認しているため、それぞれのCYP分子種に特異的な阻害剤の利用、あるいは細胞内で発現しているP450分子種に対するsiRNAの処理により、その影響を明らかとする。 また、P450酵素をはじめとして、ヒト皮膚に発現している代謝活性化酵素の発現プロファイルをHaCaT細胞と比較した上で、欠落している代謝活性化酵素がある場合には、皮膚S9の添加あるいは代謝活性化酵素を強制発現させることにより、既存の方法よりも精度・感度が優れた皮膚免疫毒性物質検出システムの確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に機器の軽微な故障が発生したため。
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