研究課題/領域番号 |
16K08356
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
原田 健一 名城大学, 薬学部, 教授 (90103267)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | microcystin分解性細菌 / プロテアーゼ / 加水分解特性 / アミノ酸トランスポーター |
研究実績の概要 |
当研究室では、microcystin分解性細菌B-9株を環境中のペプチド性有害物質の浄化に適用し、その際に必要となる分解特性を詳細に理解することおよびその分解挙動に基づき貧栄養湖における分解性細菌の「栄養獲得」作戦の解明を行うことを最終目的としている。 本研究では、B-9株が含有する3種の加水分解酵素(MlrA~C)とトランスポーターであるMlrD、および新たな加水分解酵素(MlrE)の機能を明らかにするため、分子生物学的アプローチ(次世代シークエンサー)と機器分析アプローチ(HPLCおよびLC/MS)による実験を行った。B-9株が有する3種の加水分解酵素(MlrA~C)とトランスポーターであるMlrDの遺伝子はクラスターとして存在しており、今までPCRクローニング法により不完全な塩基配列が解読されたが、今回は次世代シークエンサーのPacBio RSを用いてB-9株の全ゲノムの塩基配列を測定した。現在までにmlrクラスターが確認され、それぞれmlrA~Dの塩基配列は969 bp、1626 bp、1497 bp、1212 bpと決定ある。また、2種の新たな加水分解酵素(MlrEおよびMlrF)の塩基配列1218 bp、1491 bpも併せて確認された。 新たに見出された加水分解酵素MlrEの機能を明らかにするため、発色団を有するL-アミノ酸からなるジ~オクタペプチドの分解挙動を調べた。阻害剤の有無に関わらず、ペプチド類は加水分解が円滑に進行する一方、阻害剤添加した場合、ペンタペプチドまでは、加水分解が進行したが、ヘキサからオクタペプチドまでのペプチド類は残り続けた。したがって、ペンタペプチドまでの加水分解はMlrEが関与するが、ヘキサペプチド以上は他の加水分解酵素も関与すると考察された。また、阻害剤を添加した場合、分解されたアミノ酸が残存し続けたことからアミノ酸トランスポーターの存在が示唆され、MlrDとの機能の識別化が必要となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、microcystin分解性細菌B-9による各種ペプチド類の化合物の分解挙動をHPLCおよびLC/MSで分析する機器分析的アプローチと加水分解に関与する酵素類およびトランスポーターの塩基配列の決定、それに基づくリコンビナントタンパク質を作成する分子生物学的アプローチから構成されている。機器分析的アプローチでは、ジ~オクタペプチドを基質とし、B-9との分解挙動や新たなアミノ酸トランスポーターなどの発見があり、ほぼ予定通り進行している。一方、分子生物的アプローチでは本課題を開始して以来1年半の間、mlr遺伝子クラスターの塩基配列が完全に解読するに至らず、前年度末になり次世代シークエンサーを用いてB-9の全ゲノムおよびmlr遺伝子クラスターの塩基配列が解読された。したがって、リコンビナントタンパク質の調製には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今まで、当研究室で蓄積されてきた知見および今回得られた実験結果に基づき、新たな加水分解酵素およびアミノ酸トランスポーターの機能に関して検討する。すなわち、上述した機器分析的アプローチと分子生物学的アプローチを組み合わせ、以下に示す詳細な実験を行う予定である。(1)次世代シークエンサーによりmlr遺伝子クラスターの塩基配列および新たなアミノ酸トランスポーターと考えられる遺伝子が解読され、それらの遺伝子を用い、それぞれリコンビナントタンパク質を作成する。(2)前年度明らかになった加水分解酵素MlrEによるジ~オクタペプチド(L-アミノ酸から構成されるペプチド類)を分解することは確認されているが、MlrE自身はペンタペプチドまでの分解に関与するが示唆された。おそらく、ヘキサペプチド以上は他の加水分解酵素(MlrBやMlrC)が関与すると考えられる。MlrEの詳細な機能を調べるため、ペンタ~オクタペプチドの再現性実験およびL/D-アミノ酸の分解速度について検討する予定である。(3)アミノ酸トランスポーターおよびペプチドトランスポーター(MlrD)の機能の識別化をはかるため、阻害剤や凍結融解を行い、アミノ酸トランスポーターの欠損下における分解生成物の取り込み挙動を観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用される試薬、カラムなどがキャンペーン価格で購入できたため。
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