研究課題/領域番号 |
16K08357
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
上野 仁 摂南大学, 薬学部, 教授 (20176621)
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研究分担者 |
荻野 泰史 摂南大学, 薬学部, 助教 (80617283)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インスリン抵抗性 / セレン / レドックス / ROS / 糖尿病 / 微量必須元素 / セレンタンパク質 |
研究実績の概要 |
インスリン抵抗性と直接関係するセレンタンパク質を同定し、その作用機作と体内レドックス制御との関係を解析することを目的として、これまでに2型糖尿病モデルであるNSYマウスを用いて検討したところ、インスリン抵抗性惹起には高脂肪飼料摂取による酸化ストレスの亢進とともにseleno-L-methionine(SeMet)摂取によるglutathione peroxidase(GPX)1 および selenoprotein(Sep)P の関与が示唆された。また、インスリン抵抗性惹起により protein tyrosine phosphatase (PTP)活性が上昇し、インスリンシグナル伝達が抑制された。今年度は、インスリン抵抗性とセレンタンパク質発現との関連性を詳細に検討するため、Hepa 1-6肝癌細胞および3T3-L1脂肪細胞を用い、SeMetおよび遊離脂肪酸(FFA)処理による細胞内ROS産生とセレンタンパク質およびインスリンシグナル関連分子の発現について調べた。 Hepa 1-6肝癌細胞にFFAを16時間曝露させることでROS産生量が増加し、GPX1発現量はSeMet濃度に依存するが、SelP発現量はFFA曝露によるROS産生に依存することが判明した。つぎに、これら細胞の培養培地を交互に交換したところ、脂肪細胞から分泌されたFFAがphosphatase and tensin homolog deleted from chromosome 10 (PTEN) mRNA発現量には影響を与えないが、PTP-1B mRNA発現量を上昇させるとともに、GLUT4 mRNA発現量を減少させることでインスリン抵抗性を惹起させることが示唆された。さらに、脂肪細胞においても肝癌細胞から分泌されたSepPがGLUT4 mRNA発現量の低下を介してインスリン抵抗性を惹起する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実験計画では、高脂肪飼料摂取とセレン負荷したインスリン抵抗性マウスモデルを作製してインスリン標的組織中のセレンタンパク質発現ならびに酸化ストレスとインスリンシグナル分子の制御との関連性を明らかにした後、この関連性をより詳細に検討するため、in vitro系においてSepPを含めたセレン負荷によるレドックス制御とインスリンシグナル分子との関係を調べ、最終的にインスリン抵抗性の発症およびその予防に最も寄与するセレンタンパク質やその条件ならびに作用機構を明らかにするための検討を行うことにしていた。そのために今年度は、まず3T3-L1脂肪細胞およびHepa 1-6肝癌細胞を用い、FFA処理およびSeMet処理によるセレンタンパク質(とくにGPX1およびSepP)の発現についてRT-PCR法およびウエスタンブロッティング法により測定するとともに、細胞内ROS産生およびGLUT4の発現について蛍光標識ArrayScanにより測定する計画を立てていた。また、PTP-1BおよびPTENの発現およびphosphatase活性を測定することにより、SeMetならびにFFAの影響について検討するとしていた。 上記の実験計画は、今年度においても予定通り遂行しており、その結果として当初推定していたPTENの関与はないと判断したため、phosphatase活性の測定は行っていない。しかし、培地中に遊離したSepP量についてELISAを用いた測定を何度も試みたが、現時点で成功しておらず原因不明である。この点を除き、全体的には概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
インスリン抵抗性とセレンタンパク質発現との関連性の解析をさらに進めるため、Hepa 1-6肝癌細胞と3T3-L1脂肪細胞の共培養系について検討を行う。この場合、肝細胞で産生されて培地中に遊離するSepP量を把握する必要がある。昨年度から、ELISAによるSepP量の定量を試みているが未だ成功しておらず原因不明である。そこで、別の定量法としてSepPの酵素分解で生成するフラグメントを高速液体クロマトグラフィー/質量分析計を用いて分析する方法を検討する。そのために、機器分析が可能な研究分担者を追加する。 インスリン抵抗性に関与するセレンタンパク質として、GPX1とSepPが挙げられる。これまでに得られた結果から、GPX1の関与は高くないと思われる。そこで、当初の研究計画ではGPX1ノックダウンインスリン標的細胞を作製し、そのインスリンシグナル関連分子に対するセレン負荷およびFFAの影響解析を行うことにしていたが、それよりもSepPに着目した検討を行う。すなわち、肝細胞で産生されたSepPが直接インスリンシグナル分子およびその制御因子に作用している可能性が考えられる。そこで、SepPノックアウト肝癌細胞を作製し、そのインスリンシグナル分子およびその制御因子に対するセレン負荷およびFFAの影響解析を行う。
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