研究実績の概要 |
脳脊髄液(CSF)中の薬物動態を制御する機構を解明することは、中枢創薬やCSF中薬物濃度が治療効果を左右する細菌性髄膜炎などの薬物治療において重要である。本研究では、クモ膜上皮細胞を実体とする血液クモ膜関門(Blood-Arachnoid barrier; BAB)に輸送担体が発現し、CSF中物質動態のダイナミックな制御機構として機能していると仮説を立て、その仮説を実証することを目的とした。ラットから、くも膜を含む軟髄膜を単離して細胞膜画分を調整し、51種類の輸送体のタンパク質発現量を標的絶対定量プロテオミクス(Quantitative Targeted Absolute Proteomics, QTAP)のLC-MS/MS Parallel reaction monitoring (PRM) modeで算出した。ラット軟髄膜において、主要な薬物排出トランスポーターであるMdr1a及びBcrpや、有機アニオン性薬物トランスポーター(Oatp, Oat)など、合計22種類の輸送体のタンパク質発現量が決定された。さらに、BABにおける輸送体を介したCSF動態制御機構を実証するため、高発現量を示したOat1に着目した。具体的には、脈絡叢の影響が回避可能な大槽内投与法を用いて、基質であるパラアミノ馬尿酸(PAH)のCSF中からの消失に対するOat1の関与をin vivoで解析した。その結果、大槽内に投与したPAHはCSF中から時間依存的に消失し、消失クリアランスは26.5 microL/minと算出された。阻害剤を用いた解析から、PAHのCSFからの排出輸送に対するOat1の寄与は約80%であった。以上の結果から、BABにはOat1を介したCSFからの薬物排出輸送機構が存在し、クモ膜下腔CSFからの薬物の消失経路として機能していることが示唆された。
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